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しおりを挟む「なんだかごめんなさいね、私のせいで……」
サリオンが部屋を去ったあと、交代のタイミングでドドとエニスを呼び止め、それぞれにサリオンの態度について謝罪すると、二人とも困ったように微笑んだ。
「いえ。仲睦まじいご様子でなによりです」
「仲睦まじい?誰と誰が?」
真顔で聞き返すアルウェンに、ドドもエニスも苦笑した。
そして二人揃って『こういったことは御本人同士にはわかりにくいものですから』と頷き合うのだ。
「二人とも誤解してるわ。殿下はお優しい方だから、不慣れな私に親切にしてくださってるだけよ」
ドドもエニスも『優しい』のくだりで眉を顰めたが、すぐに平静を取り繕った。
サリオンと結婚してから一週間が経った頃、アルウェンは皇宮の慣例である、皇太子妃主催による茶会の開催、そして招待客選びに頭を悩ませていた。
この茶会は、アルウェンが貴族令嬢の時に行っていたような気軽な集まりとは異なる様相を呈する。
この茶会──皇太子妃が初めて開催する私的な集まりに呼ばれるということは、皇太子妃がこれから形成する派閥の要人であり、今後社交界を共に牽引していく栄誉を与えられたことを意味する。
これまでの関係性から、誰を選出するかある程度の目星はついていた。
だが、アルウェンを悩ませる問題がひとつだけあった。それは実家だ。
(やっぱり、呼ばなければ駄目よね……)
そもそもサリオンは、シャトレ侯爵家の権威が必要だったからこそアルウェンを妃にしたわけで。
そのような経緯からも、茶会に呼ばないわけにはいかないのだ。
シャトレ侯爵家から呼ぶとしたら侯爵夫人である母だ。
(でもまあ……お母さまだけなら……)
気持ち的には二度と会いたくなかったが、それでも母親単体ならそれほど害はないだろう。
周囲の目もあるし、母も余計なことは言わないはず。
「どうした」
恒例になりつつあった就寝前の夫婦の語らい。
だが今夜はいつもと少し雰囲気が違う。
サリオンは、どこかうわの空のアルウェンに気づいた。
「いえ、あの……」
なんと説明したら良いものか。
母親を亡くしたサリオンの前で、『母に会いたくないのです』などとはとても言えなくて。
「茶会のことか?参加者が決めきれないようなら、もう少し先にしても構わないんだぞ」
「いえ、参加者は割とすぐに決まりました」
「ならどうした」
サリオンはじっとアルウェンを見つめてくる。
さすがにこれ以上は隠し切れないと、アルウェンは口を割った。
「……母に会いたくないのです」
サリオンは、アルウェンが彼に嫁ぐことになった事情については把握していたが、家族間の確執までは知らなかった。
なので、彼の知らない家族との歪な関係について、アルウェンはこれまでのことをひとつひとつ思い出しながら、サリオンに語って聞かせた。
サリオンはなにも言わずに、ただ静かにアルウェンの話に耳を傾けていた。
「色々ありましたが、父も母も悪人ではなく、決して殿下の足枷になることはありません。それだけはご安心ください」
父母が政治的にサリオンの信頼を損ねるようなことは決してないだろう。
それに関してはアルウェンも確信している。
アルウェンはただ、せっかく安定を手に入れた自分の心に、余計な波風を立てたくないだけだった。
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