33 / 62
32
しおりを挟む「なんだかごめんなさいね、私のせいで……」
サリオンが部屋を去ったあと、交代のタイミングでドドとエニスを呼び止め、それぞれにサリオンの態度について謝罪すると、二人とも困ったように微笑んだ。
「いえ。仲睦まじいご様子でなによりです」
「仲睦まじい?誰と誰が?」
真顔で聞き返すアルウェンに、ドドもエニスも苦笑した。
そして二人揃って『こういったことは御本人同士にはわかりにくいものですから』と頷き合うのだ。
「二人とも誤解してるわ。殿下はお優しい方だから、不慣れな私に親切にしてくださってるだけよ」
ドドもエニスも『優しい』のくだりで眉を顰めたが、すぐに平静を取り繕った。
サリオンと結婚してから一週間が経った頃、アルウェンは皇宮の慣例である、皇太子妃主催による茶会の開催、そして招待客選びに頭を悩ませていた。
この茶会は、アルウェンが貴族令嬢の時に行っていたような気軽な集まりとは異なる様相を呈する。
この茶会──皇太子妃が初めて開催する私的な集まりに呼ばれるということは、皇太子妃がこれから形成する派閥の要人であり、今後社交界を共に牽引していく栄誉を与えられたことを意味する。
これまでの関係性から、誰を選出するかある程度の目星はついていた。
だが、アルウェンを悩ませる問題がひとつだけあった。それは実家だ。
(やっぱり、呼ばなければ駄目よね……)
そもそもサリオンは、シャトレ侯爵家の権威が必要だったからこそアルウェンを妃にしたわけで。
そのような経緯からも、茶会に呼ばないわけにはいかないのだ。
シャトレ侯爵家から呼ぶとしたら侯爵夫人である母だ。
(でもまあ……お母さまだけなら……)
気持ち的には二度と会いたくなかったが、それでも母親単体ならそれほど害はないだろう。
周囲の目もあるし、母も余計なことは言わないはず。
「どうした」
恒例になりつつあった就寝前の夫婦の語らい。
だが今夜はいつもと少し雰囲気が違う。
サリオンは、どこかうわの空のアルウェンに気づいた。
「いえ、あの……」
なんと説明したら良いものか。
母親を亡くしたサリオンの前で、『母に会いたくないのです』などとはとても言えなくて。
「茶会のことか?参加者が決めきれないようなら、もう少し先にしても構わないんだぞ」
「いえ、参加者は割とすぐに決まりました」
「ならどうした」
サリオンはじっとアルウェンを見つめてくる。
さすがにこれ以上は隠し切れないと、アルウェンは口を割った。
「……母に会いたくないのです」
サリオンは、アルウェンが彼に嫁ぐことになった事情については把握していたが、家族間の確執までは知らなかった。
なので、彼の知らない家族との歪な関係について、アルウェンはこれまでのことをひとつひとつ思い出しながら、サリオンに語って聞かせた。
サリオンはなにも言わずに、ただ静かにアルウェンの話に耳を傾けていた。
「色々ありましたが、父も母も悪人ではなく、決して殿下の足枷になることはありません。それだけはご安心ください」
父母が政治的にサリオンの信頼を損ねるようなことは決してないだろう。
それに関してはアルウェンも確信している。
アルウェンはただ、せっかく安定を手に入れた自分の心に、余計な波風を立てたくないだけだった。
1,201
あなたにおすすめの小説
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
陛下を捨てた理由
甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。
そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。
※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる