1 / 56
1
しおりを挟む「ルクレツィア様、こちらの髪飾りはいかがでしょう?」
年若い侍女が、鏡の前に座るルクレツィアに差し出したのは、紫色の上質なビロード生地が張られたジュエリーケース。
その中には、白銀の型に虹色に光る白蝶貝をはめ込み、中央に大粒のオパールをあしらった髪飾りが収められていた。
この見事な品は、半年ほど前のルクレツィアの十八歳の誕生日に贈られたもの。贈り主はこのエルドラ王国の第二王子シルヴィオ殿下。ルクレツィアの婚約者だ。
「ではイヤリングとネックレスの石も合わせた方がいいかしら?それならこちらのオパールチェーンのネックレスに、揃いのイヤリングで決まりですわ!」
名案だとばかりに声を弾ませたのはもう一人の侍女。彼女は鏡の横に置かれたテーブルの上に所狭しと並べられたケースの中から、一際大きなものを持ってきた。
繊細なオパールチェーンの束を中央でまとめるのは、これまた大粒のオパール。イヤリングも他の二つに引けを取らない大きさだ。ちなみにこれもシルヴィオからの贈り物である。
「……でも、お嬢様はこんなにお美しいのだから、たまには違う色合いで装われた姿も見てみたいですわ」
ルクレツィアからネックレスに視線を移した侍女は、つまらなそうに表情を曇らせた。
「ふふ、そんなことを言ったら罰が当たってしまうわ。せっかくシルヴィオ殿下が選んでくださったのだから」
ルクレツィアが優しく窘めると、彼女は少しだけバツが悪そうな顔をしたが、すぐ笑顔が戻った。それを見てルクレツィアも微笑む。これがいつもの流れだ。
侍女がこんな愚痴を漏らすのは今に始まったことではない。
なぜかというと、それはシルヴィオがルクレツィアにオパールばかり贈るからだ。理由は二つ。一つ目は、オパールの石言葉が【純真無垢】で、ルクレツィアにぴったりだから。二つ目は、ルクレツィアの滑らかな白磁の肌に、濃い色の宝石が似合わないのだとか。宝石だけではない。これまでに彼から贈られたドレスの生地も、白や淡いベージュばかり。
おかげでルクレツィア自身も自然とそのような色のものばかり揃えるようになってしまい、クローゼットは見事乳白色に染まった。
なので、美しい主を着飾らせることに最上の喜びを見出している侍女たちにとっては刺激がないというか、つまらなくてしょうがないのだ。
確かに同じ年頃の女性たちは、夜会のたびにドレスや宝石の色合わせを楽しんでいた。けれどそんなことはルクレツィアにとってはどうでもよかった。
大切なのはこの身にまとっているのがシルヴィオの選んでくれたものだということ。それを身に着けるのは、ルクレツィアにとって彼の愛を受けるのと同じ意味を持っているのだ。
「さあ、あなたたち!早くしないと間に合いませんよ!」
パンパン、と手を鳴らして支度の続きを促すのは侍女長のマグダ。
年嵩の彼女は、この若い侍女たちをまるで自身の娘のように、愛を持って躾けてくれている。
「うふふ、ありがとうマグダ。みんなも、今日はお茶に誘われただけなのだから、そんなに気合いを入れなくても大丈夫よ」
ルクレツィアの元にシルヴィオからお茶の招待状が届いたのは二日前のこと。
そこに記されていたのは日時と、“話したいことがある”という一文だった。
「ですが、“話したいことがある”なんて、きっと結婚式の日取りについてですわ!」
侍女たちは再びきゃあきゃあと騒ぎ出す。
「そんな……まだ第一王子殿下も身を固められていないのに、私たちの方が先に結婚だなんてありえないわ」
今年二十一歳のシルヴィオには、四歳年上の兄王太子カリストと、五歳年下の弟第三王子アンジェロがいる。
ちなみに二人とも婚約者がいない。十六歳のアンジェロはともかくとして、二十四のカリストにいないのはルクレツィアも不思議だった。
シルヴィオ曰く、カリストは婚約の話が持ち上がるたび、すぐに断ってしまうのだそう。相手の絵姿すら見ない徹底ぶりなのだとか。これには国王夫妻も頭を抱えているそうだ。
(きっとお二人とも、まだ運命の人に出会われていないだけよ)
そう、ルクレツィアとシルヴィオのように。出会ってしまえばたちまち磁石のように惹かれ合うはず。
「マグダ、口紅はあなたが引いてくれる?」
「かしこまりました。今日はこちらにいたしましょうね」
そう言ってマグダが取り出したのは、いつもより少しだけ赤みの強い口紅だった。
「少し派手じゃない?」
「今のお嬢様に、きっとお似合いになります」
なんだか、大人になったと言われているようで嬉しかった。
「ありがとう、マグダ」
いつもと違う紅を差したルクレツィアの顔は、もう少女のそれではなかった。
110
あなたにおすすめの小説
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
※他サイト様にも載せています。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる