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しおりを挟む舞うように相手の攻撃をかわし、斬りかかる姿はまるで剣舞のようだと思った。
美しくて目が離せない。ルクレツィアは瞬きをするのも忘れ、二人の剣技に見入った。
しかしやはりリエトの言うとおり、オリンドは強かった。
強烈な一撃を受けたカリストの足が縺れ、倒れ込む。
「殿下!!」
思わず声が出ていた。
負けてもいい。勝ち負けよりも、ただ無事でいてほしかった。
しかし倒れ込む寸前、カリストは不敵な笑みを見せた。次の瞬間、なんとカリストの長い足が、オリンドの足を払ったのだ。
「なっっ!?」
予想もしなかった足技に、オリンドは勢いよく後ろに倒れた。
カリストは素早く体勢を立て直し、倒れ込んだオリンドの頭の横に剣を突き立てた。
「し、勝負あり!勝者は王太子カリスト殿下!」
固唾をのんで見守っていた観客から大きな歓声が上がる。
息をすることも忘れていたルクレツィアは力が抜けて、その場にへたり込んだ。
カリストは、仰向けに横たわるオリンドに向かって厳しい顔で語りかけた。
「……オリンド、そなたは私のなんだ?」
「え……?」
「いいかオリンド。王族の名を語れば死罪だ。例えどんな理由があったとしても」
「存じ上げております」
それでもルクレツィアをアンジェロに渡すわけにはいかなかった。
オリンドが真実を知ったのは、試合が始まる直前。こうするより他に手がなかったのだ。
「お前を失ったら私はどうなる?いずれ私の命はこの国で一番価値のあるものになる。その命を守れる男がお前をおいてこの国のどこにいると言うのだ」
「殿下……!」
「お前はいつも自分の命を投げ出そうとするが、今日を最後にもう二度とやめろ。私にもお前にも、これから守らなければならないものが増えるんだ」
カリストの目が細められ、口元は緩やかに弧を描いた。
守らなければならないもの。それはきっとルクレツィアと、ルクレツィアとの間に授かるであろう子どもたち。
「それと、その髪型ともそろそろ別れる覚悟をしろ。お前はもう十分償ったよ」
この摩訶不思議な髪型は、戦場でオリンドを庇って亡くなった、彼の親友がしていたもの。
あまりに強烈な髪型に、オリンドも何度もやめるよう言ったのだが、【この髪型をしていると、子供が笑ってくれるのだ】、そう言ってやめようとしなかった。
遠征で長く家を開けることの多い騎士団員は、幼い我が子に顔を忘れられてしまうことが多々ある。
だが顔は忘れても、その髪型だけは覚えていてくれるのだと。
そんな親友は、敵兵に背後を取られたオリンドを庇い、その時負った傷が原因で命を落とした。
それ以来、オリンドはずっとこの髪型を貫いている。
随分昔、カリストの近習候補として選ばれた際、たった一度だけ彼に打ち明けた話しだった。それをカリストは今日までずっと憶えていてくれたのだ。
オリンドの鼻の奥が、ツンと痛んだ。
「……そうします。私がこの髪型をしても、子供は笑うどころか硬直しますから……ふふ」
カリストは、久しぶりに笑顔を見せた近習に手を差し伸べた。
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