俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香

文字の大きさ
53 / 112

53話 ボックスチーム

しおりを挟む
 時間は遡る。荒地を出たボックスチーム。

---------

 荒地を出てから碌に口にしていない。持っていた水と僅かな食べ物を少しずつ消費してとうとう無くなった。

 荒地を出て3日目だ。
 空腹と疲れで歩みも遅くなっていく。困った。どうしたもんか。荒地に戻ってもあそこには何もない。

 植物がなっている場所へと進んできたがそう食べ物が入手出来るはずもなく、と言うか、見た事がない物は恐ろしくて口に入れたくない。

 最初は異世界転移(巻き込まれとしても)と安易に考えていた。しかし俺たちを転移させた神様も召喚したかもしれない王国も現れない。
 つまりそれは自力で生きていかなくてはいけない異世界転移なのだろうが、生きていくために役立つスキルがない。

 物理攻撃も体力も微力すぎる。そして俺の完全防御も、防御が出来るだけでは人間が生きるのに必要な水も食料も手に入らない。
 どうして小説やアニメではあんなに簡単に生きていけるのだろう。

 結局俺たちの中には物語の主人公はいないって事か。俺達は誰にも知られずにこっそりと隅で終わりを迎えるモブって事だ。

 もう誰も口を開かない。開く元気がないからだ。
 どこかで休もうか、いや、休んでも立ち上がれるかわからない。では皆を置いて俺ひとりで周りを探索するべきか。しかし防御がない状態で置いていくのも…………。

 はぁ、詰んだか?

 そんな考えが頭の中をグルグルとめぐる。足を引きずり、両腕にしがみつくドドクサをひきずる。
 
 はぁ。

 ひと息吐いて顔をあげると視界に変な物が映った。

 飛行機?!
 とりあえず休めるかもしれない。何もない場所よりはマシなはずだ。


「おいっ! 飛行機だ!」


 両腕を揺さぶるように動かしてふたりに知らせた。疲れたドド達の脳に言葉が到達するのに時間がかかったようだ。ドド達より先に後ろにいた倉田の耳にはいったようだ。


「飛行機! ねえねえ! 飛行機だよ!」

「飛行機だぁ」


 後ろで杏が飛び跳ねたのがわかった。その声にようやくドドクサの脳に言葉が到着したらしい。


「本当だ! あの中で休もうぜ!」

「なっなっ、機内になんか食うもんあるんじゃないか?」


 飛び出して行こうとするふたりの腕を掴んで止めた。


「慌てるな! 中に何がいるかわからん、はみ出るな! 皆で動くぞ」


 ゆっくりと近づく。樹々から姿を現したそれは完全な飛行機ではなかった。千切れた胴体部分とでも言おうか。それが樹々の間に置かれていた。


「墜落したのかな」

「だな。…………変な形」


 墜落したにしては綺麗だ。コックピットの部分つまり飛行機の前方と尻尾のある後方がない。
 翼のついた真ん中部分だけだ。しかし翼は樹々にぶつかったのか折れていた。

 地球の飛行機に似ているが、この世界にも飛行機があるのだろうか。それとも地球の飛行機もこの世界に転移したのか?

 とりあえず、ゆっくりと飛行機周りを回ってみると、機体のドアが開いていてそこから緊急脱出用のスライドが降りていた。
 中に居た乗客が降りたのだろう。


「あ、あそこから入れる」

「入れるけどそれ登らないとだな」


 杏と紬の小学生コンビは、急な坂のスライドをものともせず上手に登っていった。
 高校生トリオとおっさんの俺は頑張って何とか登った。


 ハッチから中へと入った。
 乗客はよほど慌てて出て行ったのか、荷物が通路に散らばっていた。


「何か食うもんあるかも」


 ドドが通路をかけて行きそうになるのを止めた。


「おい、何が居るかわからない! はみ出るな」


 とは言え、狭い通路を男3人が横並びには進めない。そこでふと目に入ったトイレ、その扉を開けて中を確認する。なにも居ない。
 そこに倉田と杏と紬を押し込む。


「安全が確認出来るまでそこに居ろ。何もなかったら呼ぶ」


 そう言ってドアを閉めさせた。
 ドドとクサももうひとつのトイレに入れようと思ったが付いていくと言うので俺の後ろにくっつくように言った。

 一列になり通路を進む。

 通路の荷物や座席で見えにくい。どこかにスライムやキバ猫が隠れていてもわからないな。
 とりあえず見える所にはいない。

 乗客は皆降りたと思っていたが、若干名ここに残って亡くなったのか、座席に横になった男性を見つけた。怪我をしているようには見えない。獣に襲われたのではないのか。病死……だろうか?
 持病持ちが発作を起こした、とかかもしれない。

 そのすぐ先の席にも同じように横になった女性が居た。
 ドド達は荒地での惨劇を思い出したのか、俺の腹に回す腕に力が入った。
 その腕をポンポンと叩き、足を進める。

 通路をぐるりと周り、前方へと戻ってきた。さっき入ったハッチの反対側だ。こちら側のハッチは閉じたままだった。

 ふと、中央の座席の前の壁にバシネットがあるのに気がついた。赤ん坊を乗せる籠だ。
 そして中には赤ん坊が入っていた。その前の座席はおそらく母親だろう、女性がやはり横になって亡くなっていた。

 何だろう。こんな若い親子も病死?
 まさか、スライムやキバ猫以外に毒のような攻撃を出す敵もいるのだろうか?可哀想に、若いのに。

 それにしても綺麗な死に顔だ。
 バシネットの赤ん坊顔を覗き込んだ。

 パチ

「わああああああっ!」

「えっ、何何!」
「何だ!敵?敵か?」

 俺が飛び上がったのと同時に後ろのドドクサも飛び上がった。


「キャッキャ」

 赤ん坊が目を開けて喋った。喋ったと言うか笑った。
 てか、生きていた。


「え……何? どしたの? ええっ!誰ぇっ!」

「うわっ!」


 母親も生きてた。


 そう、母親も赤ん坊も寝ていただけだった。さっきあっちで見た男性と女性も死んではいなかった。


 俺は倉田達を呼んでトイレから出るように言い、お互いにここまでの話をする事にした。
 いや、その前に、この2日食ってない事を伝えて水があったら分けて欲しいと伝えた。(初日はわずかに食糧を持っていた)

 トイレから出てきた倉田達は、トイレで水が飲めたと言った。歯磨き用の紙コップもあったそうだ。
 勝手に水を飲んだ事を詫びると構わないと言ってくれた。それからギャレーから食事を運んで来てくれた。それを食べながらぽつぽつと話をした。




 この機内に残っていたのは親子と、足の悪い男性とその奥さんの4人だけだった。
 他の乗客は初日に出て行ったきり戻ってこなかったそうだ。最初に3分の2ほどの乗客と客室乗務員がまず出て行った。

 それから残りの乗客とひとり残っていた乗務員も一緒に出ていく事になった。
 足の悪い旦那さんと奥さん、それと乳児を抱えた奥さんも森歩きは無理だと思い残らざるをえなかった。


「あの人達が救助と出会えたら、きっとここにも救助を呼んでくれると信じて、私達は待つしかなかったです」

「君だけなら避難出来たのに……」

「何言ってるんですか。あなたを置いていくわけないじゃないですか。怒りますよ。けどね、神様はちゃんと私の事を見守ってくれていたのか。ギャレーのね、水も食糧も減らないんですよ」


 奥さんの方がギャレーを指差した。すると乳児の母親の方もそっちを見て不思議そうな顔をする。


「そうなんです。不思議でしょう? あの日、突然ここへ来た日に機内に居た皆さんがギャレーの食事を結構召し上がっていらしたから、残りも僅かだろうと思ったんですけど、まだまだあるんですよ。それに、冷たい引き出しと温かい引き出しもあって。子供のミルクも助かってます」

「お手洗いもお水が出るのよね。あれ、外に流れているのかしら」

「外には出られましたか?」

「いえ、その。獣の悲鳴みたいなものも聞こえるし、出ない方がいいかと。本当は扉も閉めたかったんですが閉め方がわからないし重たくて」

「ああ、それでか。荷物でバリケード的な物を作ったんですね」

「あ、何で通路に荷物が積んであるのかと思った」


 倉田も荷物に気がついたようだった。


「完全に塞げるほど荷物がなかったので、ちょっとした足場を塞ぐくらいなの」


 飛行機の座席の通路の先、後部座席があるトイレのドアの先に荷物が積んであった。と、言っても高さは1メートルくらいだ。キバ猫もスライムも入ろうと思えば簡単に侵入出来る。

 こっちのハッチに近い通路にはカートが並んでいた。客室乗務員がよくコーヒーなどの飲み物を配り歩いているアレだ。

 皆が出て行ってから外の遠吠えの獣が入らないように出来る限りの事はして、そのままここにこもっていたそうだ。

 今日で3日。
 出て行った者は戻って来ない。てっきり俺らが救助隊かとぬか喜びをしたそうだ。

 しかし小学生ふたりに高校生3人におっさんひとり、どう見ても救助隊ではない。どう見ても同じ遭難者だ。
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...