57 / 112
57話 ミラクルギャレー
しおりを挟む
食料と水に困らないのなら今はここを動くべきでないと話がまとまった。
現在ここに居るのは10人。
九条さん夫婦は旦那が足が悪いそうだ。機内へも車椅子で乗ったそうだ。車椅子はキャビンアテンダントが何処かへ持っていったそうだが、この胴体部分では見つからなかった。失くなった後部ギャレーの方かもしれない。
それから桜井さん。生後半年の光太郎くんを抱えている。
そして高校生トリオの倉田、小宮、加瀬。小学生コンビの杏と紬。
サラリーマンの俺27歳だ。
身軽に動ける大人は俺ひとり。しかも身軽に動きたくない謎の世界だ。神様、異世界転移が厳しくないですか?
っとすみません。スキルを頂いておいて文句を言うなんてな。愚痴まみれだったリーマン生活が身に染み込んでるなぁ。
とりあえずはここが俺たち10人の城……、現在の拠点だ。
乗客の荷物を隅っこへと移動させた。ここへ来た初日に森の中へと消えていった乗客達。
あれから1週間経つが戻って来た者はいない。それは、どこかで救助されたのか、それとも避難先を見つけたのか。
考えたくないが1番ありそうなのは、森の中で亡くなった。
どちらにしても個人の荷物を探るのには忌避感が強く、とりあえず隅に寄せておく事にした。
もう1週間くらいしても戻らないようなら、荷物を探って衣類を使わせてもらうかもしれない。
俺たち1週間着たきり雀だからな。えっ?何で雀なのかって?俺も知らんが職場のおっさんがよく言ってた。
下着はトイレで洗わせて、夜間に干しておいた。
「夜は全員ノーパーン!」
と、ドドクサが楽しそうに騒ぎ、倉田女子に蹴られていた。
「アンタ達、この紐からこっち来たらコロす!」
あ、はい。俺もあっち側ですね、わかりました。
朝は不思議体験だ。
「変だよねぇ。私達が食べたはずなのに、また満タン」
「ねぇ、機内食、腐らないかな」
「食べきれないくらいあるね。もったいないね」
「国内線だからメニューはこんなもんか。国際線だともっとあるはずなのよね」
メニューも量も少ない国際線だが俺たちには充分だ。何しろ10人しか居ないからな。それもうちひとりは赤ん坊だし。
「腐りそうなのから食っていこう。あー、赤ん坊が食べられそうなのあるか?」
「はい。潰したり刻めばだいたいは。あと、水とミルク」
「ねぇねぇ、本当に電気ないの? 冷たいよ? ここ冷蔵?」
「こっちあったかいもんね」
「まぁ、色々謎だからね。もう、何でもありでしょ」
倉田女子がかなり投げやりに吐き出した。何でもありではないが、流石に空間スキルはかなりのチートだな。
「ファーストとかビジネスがあったら寝やすかったんだけど、あのカーテンの向こうだよな。無くなってるとこ」
「エコノミーでも肘掛け退かせば充分寝れるじゃん」
「俺、横に落ちるから最初から床でいい」
「枕と毛布はいっぱいあるからねぇ」
「風呂が無いのは仕方ない。トイレは前方のギャレーの横、右側が女子、左が男子な。臭くても我慢だ。外には行くな! 絶対にダメだ」
「はーい」
「あ、おしぼり。おしぼりあるよ? 身体拭こう?」
「おしぼりは赤ん坊優先である程度残しておいてやれ」
「わかったー。いくついるかな」
「すみません、ありがとうございます」
こんな感じで機内の居心地が良いおかげでなんとか暮らしている。
1番の不思議は電気が通っていないようなのに、何故か室温が保たれている事だ。寒くも暑くもない。空間スキルの機能のひとつだろうか?
「ねぇ! 凄いよ」
「また補充されてるね」
何故、毎朝、同じ事で騒げるのか。楽しそうだから良いがな。
「サンタかな。サンタが夜中に補充に来てるとか」
「夜中に補充にくるなら救助してくれよぉ」
「まだ4月じゃん。サンタには早いよう」
「今日は何を食べようかなぁ」
「あ、軽食もあるね。私、これまだ食べてない」
毎朝皆がギャレーに集まって楽しそうだ。これが普通の旅だったら良かったんだがな。
小学生組が親を思い出して家に帰りたいと泣き喚いてないだけましか。
今日は後方の荷物を探る事になった。薬や避難時に必要になりそうな物をチェックした。
お昼を食べた後にレベル上げの話になった。
ここをあまり離れずに経験値を貯めたいと高校生組が言い出した。まだ『微』のままなのが気になるそうだ。
「やっぱりこう言うのってスタダが必須だと思うんだ」
「何? スタバ? スタバが必要なの?」
桜井さんはアニメやゲームはあまりしない人か。
「スタートダッシュっすよ。全員『微』スタートだとしたら、1番に『微』の上に上がれたやつは、ボーナスが貰えたりするんです」
どんなボーナスだよ。ほんとかよ。どこ情報だ?
「え、じゃあうちらライバルじゃん。この中でひとりしかボーナス貰えないんでしょ?」
高校生トリオの間で緊迫した空気が流れた。その緊迫をよそにクイクイと服を引っ張られて見ると杏だった。
「お兄さん、経験値稼ぎに連れて行って」
「ズルい私もお願いします! 大島さん」
「兄貴ぃ、俺も連れて行ってくれ」
「ししょー! 俺もお頼もうすぅ」
ドドよ、いつからお前の兄になった。加瀬、弟子をとった覚えはない。
が、まぁ、経験値を稼いでおくのは俺も必要と思うので頷いた。
現在ここに居るのは10人。
九条さん夫婦は旦那が足が悪いそうだ。機内へも車椅子で乗ったそうだ。車椅子はキャビンアテンダントが何処かへ持っていったそうだが、この胴体部分では見つからなかった。失くなった後部ギャレーの方かもしれない。
それから桜井さん。生後半年の光太郎くんを抱えている。
そして高校生トリオの倉田、小宮、加瀬。小学生コンビの杏と紬。
サラリーマンの俺27歳だ。
身軽に動ける大人は俺ひとり。しかも身軽に動きたくない謎の世界だ。神様、異世界転移が厳しくないですか?
っとすみません。スキルを頂いておいて文句を言うなんてな。愚痴まみれだったリーマン生活が身に染み込んでるなぁ。
とりあえずはここが俺たち10人の城……、現在の拠点だ。
乗客の荷物を隅っこへと移動させた。ここへ来た初日に森の中へと消えていった乗客達。
あれから1週間経つが戻って来た者はいない。それは、どこかで救助されたのか、それとも避難先を見つけたのか。
考えたくないが1番ありそうなのは、森の中で亡くなった。
どちらにしても個人の荷物を探るのには忌避感が強く、とりあえず隅に寄せておく事にした。
もう1週間くらいしても戻らないようなら、荷物を探って衣類を使わせてもらうかもしれない。
俺たち1週間着たきり雀だからな。えっ?何で雀なのかって?俺も知らんが職場のおっさんがよく言ってた。
下着はトイレで洗わせて、夜間に干しておいた。
「夜は全員ノーパーン!」
と、ドドクサが楽しそうに騒ぎ、倉田女子に蹴られていた。
「アンタ達、この紐からこっち来たらコロす!」
あ、はい。俺もあっち側ですね、わかりました。
朝は不思議体験だ。
「変だよねぇ。私達が食べたはずなのに、また満タン」
「ねぇ、機内食、腐らないかな」
「食べきれないくらいあるね。もったいないね」
「国内線だからメニューはこんなもんか。国際線だともっとあるはずなのよね」
メニューも量も少ない国際線だが俺たちには充分だ。何しろ10人しか居ないからな。それもうちひとりは赤ん坊だし。
「腐りそうなのから食っていこう。あー、赤ん坊が食べられそうなのあるか?」
「はい。潰したり刻めばだいたいは。あと、水とミルク」
「ねぇねぇ、本当に電気ないの? 冷たいよ? ここ冷蔵?」
「こっちあったかいもんね」
「まぁ、色々謎だからね。もう、何でもありでしょ」
倉田女子がかなり投げやりに吐き出した。何でもありではないが、流石に空間スキルはかなりのチートだな。
「ファーストとかビジネスがあったら寝やすかったんだけど、あのカーテンの向こうだよな。無くなってるとこ」
「エコノミーでも肘掛け退かせば充分寝れるじゃん」
「俺、横に落ちるから最初から床でいい」
「枕と毛布はいっぱいあるからねぇ」
「風呂が無いのは仕方ない。トイレは前方のギャレーの横、右側が女子、左が男子な。臭くても我慢だ。外には行くな! 絶対にダメだ」
「はーい」
「あ、おしぼり。おしぼりあるよ? 身体拭こう?」
「おしぼりは赤ん坊優先である程度残しておいてやれ」
「わかったー。いくついるかな」
「すみません、ありがとうございます」
こんな感じで機内の居心地が良いおかげでなんとか暮らしている。
1番の不思議は電気が通っていないようなのに、何故か室温が保たれている事だ。寒くも暑くもない。空間スキルの機能のひとつだろうか?
「ねぇ! 凄いよ」
「また補充されてるね」
何故、毎朝、同じ事で騒げるのか。楽しそうだから良いがな。
「サンタかな。サンタが夜中に補充に来てるとか」
「夜中に補充にくるなら救助してくれよぉ」
「まだ4月じゃん。サンタには早いよう」
「今日は何を食べようかなぁ」
「あ、軽食もあるね。私、これまだ食べてない」
毎朝皆がギャレーに集まって楽しそうだ。これが普通の旅だったら良かったんだがな。
小学生組が親を思い出して家に帰りたいと泣き喚いてないだけましか。
今日は後方の荷物を探る事になった。薬や避難時に必要になりそうな物をチェックした。
お昼を食べた後にレベル上げの話になった。
ここをあまり離れずに経験値を貯めたいと高校生組が言い出した。まだ『微』のままなのが気になるそうだ。
「やっぱりこう言うのってスタダが必須だと思うんだ」
「何? スタバ? スタバが必要なの?」
桜井さんはアニメやゲームはあまりしない人か。
「スタートダッシュっすよ。全員『微』スタートだとしたら、1番に『微』の上に上がれたやつは、ボーナスが貰えたりするんです」
どんなボーナスだよ。ほんとかよ。どこ情報だ?
「え、じゃあうちらライバルじゃん。この中でひとりしかボーナス貰えないんでしょ?」
高校生トリオの間で緊迫した空気が流れた。その緊迫をよそにクイクイと服を引っ張られて見ると杏だった。
「お兄さん、経験値稼ぎに連れて行って」
「ズルい私もお願いします! 大島さん」
「兄貴ぃ、俺も連れて行ってくれ」
「ししょー! 俺もお頼もうすぅ」
ドドよ、いつからお前の兄になった。加瀬、弟子をとった覚えはない。
が、まぁ、経験値を稼いでおくのは俺も必要と思うので頷いた。
110
あなたにおすすめの小説
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる