加藤くんと佐藤くん

春史

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 週明け、加藤はどんよりした気持ちで電車に乗っていた。佐藤のことが頭から離れず、あの言葉の先が気になって、でも聞くのが怖い気もするし、とせっかくの休日もぼんやり過ごしてしまった。どうしてこんなに自分が考えなければならないのか、どこかへ出掛ければよかったと加藤は溜息を吐いた。佐藤の顔も見たくないが、どうせ斜め前の席だ。嫌でも目に入る。朝礼が終わったらすぐに外回りに出ればいいかと考えていると、電車を降りたところで加藤くん、と声を掛けられた。
「本宮さん、」
「おはよー! 朝から元気ないねー」
 ちょっと寝不足で、と加藤は苦笑した。本宮先輩はいつも全力投球な人だ。裏表がなく好きなものは好き、嫌なことは嫌とはっきりしている。加藤とは合わないタイプだと新人の頃に本人からはっきり言われたことがあるが、だからといって嫌いではないらしく仕事のことなんかは割と話してくれる。
「この前の飲み会はごめんねー。また飲み過ぎたみたいで」
「いえ、俺は何にも」
「橘くんに後輩達に謝っとけって言われてさー」
「あ、そうなんですか」
「ちょっと飲み過ぎて佐藤くんにもかなり絡んじゃったから──あ、佐藤くんだ」
 どきりと心臓が跳ねた。佐藤くーんと本宮先輩が佐藤を呼ぶ。こちらに気付いて彼は人混みを避けながらやってきた。
「おはようございます」
「おはよー」
「…おはよう」
 朝から爽やかな笑顔だなーと思いながら加藤も挨拶を返した。
「この前はごめんね、すごく絡んじゃって」
「あぁ、あれくらい全然大丈夫ですよ」
 変わった様子のない佐藤にほっと胸を撫で下ろす。佐藤もきっと酔っていただけだと気を取り直した。


 午前中の仕事が終わり、午後の予定まで時間が空いたので昼食を会社で食べようとコンビニで弁当を買って休憩室に入ると、本宮先輩と橘先輩がいた。
「お疲れ様です」
 一番端の席に座り弁当を食べ始める。妙に視線を感じて顔を上げると、本宮先輩がじっと加藤を見ていた。
「…何か……?」
 にこりと笑って本宮先輩が加藤の隣に座る。
「加藤くんて、佐藤くんの好きな人誰か知ってる?」
 突然の質問に加藤は喉を詰まらせそうになった。慌ててお茶を飲み息を整える。
「本宮さー、そういうの関係ない奴に話すのどうかと思うけど?」
「関係なくはないじゃん? 幼馴染なんでしょ?」
「幼馴染って言っても、小中一緒だったってだけなんで。ていうか、好きな人って…?」
 話が読めないと橘先輩に助けを求めた。
「二次会でどういう子がタイプかって話になって、佐藤くんが答えてくれたんだけど」
「『身長は普通で細身で優しくて、きりっとした目で、ちょっときつそうだけど本当は可愛い人です』って、すごい具体的に言うのよ」
 橘先輩を遮って本宮先輩が答える。
「でね、それって『好きな人がそうなの?』って聞いたらそうですって! それも小学校のときからの初恋なんだって!」
「声でかいって」
 加藤はその話を聞いて驚いた。よく何組の誰々が佐藤に告白したらしいとは聞いていたが、佐藤にそんな相手がいる噂は聞いたことがなかった。同級生で佐藤の言う特徴の人はいただろうかと記憶を辿るが全く思い浮かばない。
「加藤くんだったら誰か知ってるかなって思ったんだけど、知らない?」
「いやー全然…。正直、昔過ぎて思い出せないです」
「そりゃそうだよなぁ。俺も子供の頃の同級生とかほとんど覚えてないよ」
「私はイケメンだなって子のことは覚えてるわよ?」
「お前と一緒にするなよ…」
「加藤くんの家に小学生のときのアルバムってないの??」
「実家にはあったと思いますけど…」
 そうだよねーと本宮先輩が嘆いた。いつも誰に対してもにこやかに接している佐藤に、一途に想い続けている人がいるなんて全く想像もつかなかったと加藤は弁当の残りを詰め込んだ。



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