加藤くんと佐藤くん

春史

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「加藤くんと何話してたんですか」
 加藤と別れて駅前を通ったとき、佐藤が立っていて橘は悲鳴をあげそうになった。酔っているのか少し顔が赤い。
「怖いんだけど!」
「加藤くんなんて言ってましたか」
 泣きそうな顔で佐藤が尋ねた。
「別に。君の話聞いてみたら? って言ったけど」
 そう言うと、彼の頬をぽろぽろと涙が伝って橘は更にぎょっとした。
「何、君泣き上戸なの…」
 いつも笑顔でいる佐藤はこんな風に泣くのかと橘は頬を拭う彼をじっと見つめる。
「どうして…先輩はそんなにいい人でいられるんですか。先輩だって加藤くんが好きなんですよね?」
 ぐっと拳を握り締め、お前がそれを言うかと橘は苛立ちを堪えた。
「…あのねぇ。俺は悠季を傷付けたくないんだよ。君が先に告白して、悠季がそれに応えたならそれでよかったんだ。幸せそうにしてたから」
 クリスマスに会ったとき、普段見たことがない笑顔でいる彼を見ると、これまで通りの関係でいることは間違いじゃなかったと思った。仮に今回のことで佐藤と別れるとしても、傷心のところに付け込むようなことはしたくなかった。
「悠季のことを諦めた訳じゃないよ。悠季にはちゃんと自分で納得いく答えを出してもらいたいだけだから。もし悠季が聞いてきたら君は誤魔化さず正直に話してあげなよ」
 佐藤はごめんなさいと呟いた。
「加藤くん俺の話聞いてくれるかな…」
「そればっかりはわからないよ。休みの間に決めるんじゃない? あんまりしつこく電話とかしたら逆効果かもね」
 なんとなく、佐藤のことを責める気にはなれなかった。やっていることは確かにおかしいと思うが、目の前の彼は幼い子供のように見えた。
「“神様”ってなんなの?」
 疑問に思っていたことを聞くと、佐藤はへらりと笑顔になった。
「加藤くんは俺の神様なんです。加藤くんがいるから今の俺がいる」
 それから自嘲気味に笑って大きな溜息を吐く。
「子供の頃の馬鹿な幻想ですよ。自分でもわかってるけど、どうしようもない」
 橘はどういうことだと目を細めたが、佐藤は真剣な顔になりぺこりと頭を下げた。
「失礼なことをして本当にすみませんでした。ありがとうございました」
「あ、ああ…。まぁ、悠季のことこれ以上傷付けないでね」
 ころころと表情が変わる奴だなと橘は呆気に取られながらしっかり頷いた彼を見送り自宅へ歩き出した。




『怖がらせてごめん。加藤くんが許してくれるなら全部話したい』
 昨晩それだけメッセージが送られて以降佐藤からの連絡はない。加藤は実家へ向かう新幹線の中で彼のことを考えていた。
 小学校の頃は名字が一字違いだねと話したことがあった。スポーツクラブに入っていた彼は活発で、加藤は休み時間は教室で本を読んでいるタイプだった。佐藤は何読んでるの、と聞きに来ていたことがあったことを思い出した。図書室で適当に借りたと言うと次にそれを読むと言って彼が図書室に行くと皆がついてきて騒がしくなり加藤も巻き込まれて叱られたのだった。
 中学生になると差は顕著になり、佐藤が話し掛けてきたときも他の人達が佐藤を呼びに来た。取り巻き達のこちらを見下すような視線が煩わしくて関わりたくないと思った。
 なので勉強を頑張って、高校はそいつらがほとんど行かないようなところに進学した。
 それでも一人二人は同じだった気がする。その頃になると加藤は新しい人間関係を築き佐藤のことを思い出すこともなくなり、大学は自宅からぎりぎり通えるようなところへ行ったのでそんなことは記憶の片隅に追いやられていた。
 その間も彼はずっと加藤を探していたということか。いったいどういう気持ちだったのだろう。あんな幼い頃からの写真を集めて飾って、再会するまで何を思っていたのだろう。
 見慣れた景色が増えてきた窓を眺め、加藤は溜息を吐いた。


「ただいま」
「おかえりー」
 実家には夕方到着した。玄関を開けると母親が出迎えてくれた。加藤の母は切長の涼やかな目をしていたが、年を重ねてその目尻は少し下がっていて昔程の鋭さはない。加藤の睨んでいるみたいと言われる目は母親譲りである。
「久しぶりだねぇ。あんたちっとも帰ってこないんだもの。部屋の荷物全部捨てるとこよ」
「え…」
 荷物置いてきなさいという言葉に従い自分の部屋へ向かった。二年ぶりの自室にこんな狭かったっけと思いながらベッドへ腰を下ろす。
「そういえばアルバム…」
 持って帰るかどうかは別として、ちょっと見てみようと本棚を探すが見当たらない。
「あれ、どこにやったっけ…」
 うろうろと部屋を探していると母に呼ばれて一階へ下りた。
「今日はお父さんも遅いしちょっと早いけど食べちゃお」
「あ、すき焼きだ」
「二人だとなかなかしないからさー」
 ふふふと笑って母は席に着いた。いただきますと手を合わせて食べ始める。懐かしい家庭の味に加藤は笑顔が出た。
「あんたは相変わらずおいしそうに食べるね」
「そう?」
 いいことだよと母が言った。
「そういえばさ、小中のアルバム知らない?」
「卒業アルバム?」
「うん。部屋に置いてたかと思ったけど見当たらないから」
「ああ。あんたが向こう行くときいらないって言うからお母さんが取っといたよ」
「えっそうだったっけ…」
「ほら、やっぱり見直したくなったでしょ。あとで持ってきてあげる」
 ありがとうと箸を進める。父親と二人で食卓を囲んでいる様子を想像して、もう少し帰省の頻度を上げた方がいいかなと思った。


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