加藤くんと佐藤くん

春史

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おまけ2

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「ねぇ、佐藤くんって彼女できた?」
 突然の言葉にびくりとして、食事の手が止まった。
「あーやっぱそうなんだ」
 本宮先輩がニヤリと笑う。
「加藤くんならどんな人か知ってるでしょ?」
 内心どきどきしながら加藤はさぁ、と曖昧に笑うしかできなかった。


「──ていう感じで、もしかしたら本宮さんからなんか聞かれるかも…」
 一緒に帰りながらごめんね、と加藤が言うと佐藤は大丈夫だよと首を振った。
「本宮さんかぁ…聞かれたらどうしようか」
「変にごまかすとややこしそうだよね」
「俺は別にバレてもいいんだけど…というより言いたい、かな」
「えっ!」
 佐藤が加藤の手を取る。
「俺の恋人が加藤くんだって言ったら、心配も減るし」
 じっと上目遣いでこちらを見るので、まだ新人のことを気にしているのかと加藤は目を逸らした。
「でも皆に変な目で見られたら困る…」
「まだまだ偏見はあるしねぇ。でも架空の彼女作るのもなぁ。本宮さんのことだから嘘だってバレそう」
 うーんと二人で頭を悩ませていたが、そうだと加藤は提案した。
「橘先輩に相談しよう。本宮さんのことよく知ってるし、いい案出してくれるかも」
「橘先輩ねぇ…まぁそうしようか」



「悠季が久々に誘ってくれたから喜んでたのに彼氏付きかぁ」
 わざとらしく溜息を吐いて橘先輩が座った。
「わざわざすみませぇん」
 橘先輩はどうも佐藤をからかいたくなるようで、佐藤もわざとらしい笑顔で応じた。いつの間にか仲良くなってるのはいいことだよな、と鈍い加藤は普段通りに今日はありがとうございますと言う。
「相談ってどうしたの?」
「本宮さんのことなんですけど…」
 彼女の名前を出すと彼はぴんときた様子で頷いた。
「佐藤くんに彼女できたって話か」
「そうなんです。この間俺が聞かれたんですけど、全然誤魔化せなくて」
「まぁあいつはなぁ…変に何か言うと面倒だもんね」
 はい、と小声で返事をする。
「俺はまだ何も言われてないんですけど、色々聞かれたら設定とか細かく決めとかないとややこしくなりそうだしと思って」
「あーそうだねぇ…本当のことは言わないの?」
「俺はいいんですけど、加藤くんがそれは…」
「なんかやっぱり、まだちょっと…」
「そっかぁ。本宮は面倒だけどそういうとこきちっとしてるけどねぇ」
「もし先輩だったら言いますか?」
 加藤の言葉に橘先輩は少し考えてから言う、と答えた。
「まぁでもあくまで俺の考えだから、悠季が言いたくないならいいんだよ。架空の彼女の設定作るの手伝ってあげる」
「あ、ありがとうございます」
「それに佐藤くんに聞いてくるかまだわからないしね」
「それもそうですよね」
「じゃあ彼女どんな感じにする?」
 そう言ってノリノリで橘先輩は設定を提案し始めた。
「でもあんまり現実と離れるとボロが出そうですよね」
「それもそうだね」
 佐藤と橘先輩が二人で話す横で、加藤はどうするのが一番良いのだろうとぼんやりしていた。
「…今思ったら、なんで俺に聞いてきたんだろう?」
 ふと、加藤は思ったことを口にした。
「彼女できたかくらい佐藤くんに聞けば済むことだよね?」
「俺最近本宮さんとあんま話す機会なかったからかな?」
「この間の歓迎会とかあったじゃん」
 それもそうかと佐藤が首を傾げる。橘先輩も同じようになんでだろうね、首を捻った。
「もしかして気付いてる、とか…?」
「うーん…本宮に聞いてあげようか?」
 佐藤と顔を見合わせ、加藤は頷いた。橘先輩はその場で電話を掛ける。
「あ、お疲れー。仕事終わってる? うん、ちょっと聞きたいことあって。え? ああそう。よくわかったね」
 佐藤がテーブルの下で加藤の手を握った。ぎょっとして彼を見ると悪戯っぽく笑っている。橘先輩に見られる、と小声で言うがどこ吹く風だ。
「えぇ…。ちょっと待って、聞いてみるから」
 橘先輩がこちらを見たので心臓が飛び出るかと思った。
「なんか本宮が合流したいらしいんだけど、どうする?」
「えっ」
「だよねぇ。嫌だったら断ってもいいよ」
 断るのも変な話か、と加藤が了承すると佐藤もどうぞと言った。
「オッケー。じゃあ待ってる」
「俺はいない方がいいかな?」
 橘先輩が電話を切ると佐藤が言った。
「いや、二人といるんでしょって感じだったから大丈夫じゃない?」
「それって、本宮さんやっぱ気付いてるってことでしょうか…?」
「どうなんだろう。俺は何も聞いてないけど…まぁ待ってみよう」


「ごめんごめん遅くなっちゃった!」
 本宮先輩がばたばたと入ってきて橘先輩の隣に腰を降ろした。ドリンクバーを注文してコーヒーを取ってくるとさて、と佐藤と加藤を見る。
「で、佐藤くんの彼女ってのが、加藤くんなんでしょ?」
「えっ?!」
 三人が同時に声を上げた。
「なんで…?」
 橘先輩が言うと彼女はコーヒーを口にした。
「女の勘を舐めてもらっちゃ困るわよ。いつも一緒にいるじゃない」
「えっ、じゃあなんでこの前俺に…」
 ふふふ、と彼女は笑う。
「何となく怪しいなーって思ってて、この前ので確信したの。加藤くんてほんとわかりやすいよねぇ」
 加藤は改めて彼女が怖いと思った。
「佐藤くんだったらうまく躱すんだろうなって思ったからさ」
 佐藤が苦笑する。
「あ、あの他の人には…」
「大丈夫。誰にも言ってないし、あなた達がカミングアウトしないなら私も言わない」
 ほっと息を吐くと彼女は質問を投げ掛けた。
「どっちが女役なの?」
 隣で水を飲んでいた橘先輩が吹き出した。加藤も顔が真っ赤になり、佐藤が平然と加藤くんですと答える。
「佐藤くん!!」
「あらぁそうなのねぇ」
「そういうの聞かなくてもいいだろっ…」
「えー気になるじゃない」
 既に帰りたいと思いながら彼女の質問に佐藤が答えるのを見ていた。


 先輩達と別れた帰り道、加藤は大きな溜息を吐いた。
「ごめんね、色々答えちゃって」
「ほんとだよ! 何もあんな正直に話さなくても…!」
 馴れ初めや初めてのデートはどこに行ったかくらいは平気だったがキスのシチュエーションやいつセックスしたかまで聞かれるとは、そして佐藤が答えるとは思わなかった。向かいで橘先輩も燃え尽きたみたいになっていたし、恥ずかしさに居た堪れなかった。
「ごめん。加藤くんの可愛さを自慢したくて…」
 しょんぼりして佐藤が俯く。悪戯をして怒られた犬のような彼の姿に加藤は弱かった。
「──もう! 他の人には絶対話しちゃだめだからね!」
 そう言って彼の手を引いた。
 アパート前でじゃあねと言うときょろきょろと辺りを見回してから佐藤がキスをした。
「ちょっと、人が来るよ」
「今誰もいないから大丈夫」
 そう言ってもう一度唇を塞ぐ。彼の舌が割って入ってきてびくりと肩が震えた。深くなる口付けに加藤の力が抜けそうになったところで足音が聞こえ慌てて佐藤を突き放した。
「…うち、寄ってく?」
 小さな声で言うと佐藤は満面の笑みで頷いた。


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みんなの感想(1件)

しらたまにゃんにゃん

制反対すぎる二人がすごく面白くてドキドキしました!これからも頑張ってくださいね。

春史
2021.10.20 春史

とっても嬉しいお言葉ありがとうございます!最後まで頑張ります。

感想ありがとうございました。

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