この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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997年目

18 騎士 ※空

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 ※※※ 空 ※※※



「いやあ、面白いものを見た」

王太子夫妻とチヒロのお茶会が始まったので、シンは隊長と壁際に並んで立っている。

お茶会の催されているこの接待室の警備は、もちろん東の宮を担当する騎士の役目なのだが、隊長の「面白そうだから混ぜろ」の一言でこうなった。

二人はお互い前を向いたまま、小声で会話する。

「くく……さすがだな『空の子』様は。
お前、あれほど物怖じせず口をきかれたのは初めてじゃないのか?」

隊長は声を殺して笑い、そして言った。

「やはり子どもなのは姿だけだったか」

シンはぴくりと小さく反応した。

「姿だけ?……あの方が子どもではない、と言われるのですか?」

「ああ、伝説では【『空の子』は高い知識を持った子ども】って話だったな」

そう言って、隊長は鼻で笑う。

「あれが《賢いだけ》の子どもなものか。
本当はいくつなのかはわからないが。あれは大人だぞ。子どもの姿をした、な」

シンは思わずといったふうに隊長を見た。

「今日、初めて言葉を交わされたのでは?」

「そうだぞ?それでもわかるさ。謁見の時から疑っていたがな」

当然だろうといった様子の隊長を見て、少しおいてからシンは言う。

「私には子どもにしか見えませんが」

「……お前、本当に変なところで鈍いよな」

隊長は残念なものを見るような目で部下を見た。

「まあいい。それより厄介な《嬢ちゃん》の護衛を任されたな。
あの可愛らしい姿に騙されるなよ」

「は?」

「……さっきの悪戯の時だ。お前の後ろから、あれは物凄い目で俺を睨んできた。
俺がお前に何かすれば、自分が許さないって顔してな」

シンは返事ができずにいる。

「《ただ賢いだけの子ども》が、あんな顔など出来るものか。
……だが。
俺のあからさまな殺気にも全く気が付かない鈍感で、《子どもの姿》をしてるくせに。
どうして自分が騎士のお前を守ろう、なんて考えるのかねえ。
はは、なんでか知らんがお前、随分と懐かれたみたいだな」

隊長は笑顔のまま視線を前に戻した。

少し離れた場所では王太子夫妻に何か言われ、チヒロが笑顔で応えている。

「気をつけろよ。
ああいう奴は一番守りにくい。大人しく後ろにいてはくれない。
前へ飛び出していくぞ。用心しろ。
――ああ、エリサとアイシャにも言っておけよ」


「わあ、なんて可愛いの」

チヒロが声を上げた。

シンは隊長を見たままだった視線を戻す。

チヒロは王太子夫妻と一緒に、部屋の奥にあった天蓋付きの小さなベッドの前にいた。

そこに寝かされているのは王太子夫妻が成婚してから何年も待ち望み、ようやく授かった赤児――王子だ。
王太子妃が片時も離れず、自ら世話をしている。側には乳母が二人ついていた。

王太子夫妻は赤児――王子の、初のお披露目の相手をチヒロにしたらしい。

「抱っこしてもいいですか?」

チヒロが頼むとぎょっとした乳母2人を手で制し、王太子妃が頷いた。

チヒロは乳母の一人に手を清める水を求めたが、ないと言われてかわりに置いてあった薄い緑色のブランケットを受け取った。

そして元いた位置に戻ると、器用にブランケットを赤児と布団の間に潜らせ、あっという間に赤児を素手で触れることなく抱き上げた。

生後ひと月ほど。
まだしっかりすわらない赤児の首と弱々しい身体を自分の腕で支えながら、反対の手でそっとブランケットを巻く。
赤児はチヒロに大人しく身を預けている。

その様子を見つめていた王太子妃は、淡い金色の瞳を揺らして微笑んだ。

「お話から、そうかもしれないと思ったのですが。
やはりチヒロ様は赤児の世話に慣れておられるのですね」

チヒロも「多分」と言って笑う。

「本当に不思議な方ですのね。少女に見えるのに本当は、お姉様のようだわ」

「頼りにしても?」という王太子妃の言葉を冗談だと受け取ったのだろう。
チヒロは「かしこまりました!」と元気に言って、王太子夫妻の笑いを誘って
いた。

隊長が言った。

「見ろシン。どうやら王太子妃様も気がつかれたようだぞ」


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