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997年目
29 始動 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
次の日からテオがやってきた。
巻き毛とくりくりした瞳がかわいい、小柄な男の子だ。
目線が同じ高さなのにまず感激した。
目の前に顔はこの国にきて初めてだ。
私の周りは大人ばかりだったからね。しかもこの国の人はみんな背が高い。
そんなわけで、あまりにテオが可愛いくて「かわいい!」を連発したらエリサに
「テオ君に失礼です」と怒られた。
そうだった。
今の私はテオと見た目が同い年くらいなのを忘れてました。
男の子なのに、同い年の女の子に「かわいい!」と言われるのは嫌だよね。
たとえ《中身》が違っても。
テオは話せなかった。
一年前に訳あってシンに引き取られたのだとセバス先生が教えてくれた。
それでも何の問題もなかった。
紙や手のひらに文字を書く筆談は出来たし、テオは表情が豊かで感情や言いたいことがわかりやすかった。
それになんと言っても察しが良かった。
「こんな物が作って欲しいの」と、作ってもらいたい物を絵に描いて説明すればコクコク頷いて。
すぐに私の説明で足らないところを聞き返し詳細な絵にし、材料から考えてくれた。
私が机の上に出しっぱなしにしていた万華鏡の材料も引き取ってくれた。
(これはどうするの?)
と身振りと顔で聞いてきたので、ざっくり組み立てて説明すると目を輝かせ、これも作っていいかと言ってくれた。
「ああ、なんていい子なの!
おばちゃん、何でも教えてあげたくなっちゃう!」
と思っていたらエリサにひかれた。
テオも変な顔してこちらを見ていた。
……声に出てたみたいだ。
謁見用のドレスの時にお世話になった王宮の衣装係さんとお針子さんたちにクルタを作って貰った。
今の普段着である男の子の服はドレスより楽だけど、この国の服は男の子用でも色々重ねてあるしボタンが多いし脱ぎ着が結構面倒くさい。
ワンピースが欲しい、とレオンにお願いしたら却下された。
手足が出るワンピースは平民の女の子の服なんだそうだ。
そういえば王宮の侍女さん達もドレスのお仕着せを着ている。
「『空の子』向きではないから却下」と言われれば意地になった。
じゃあ『空の子』らしい簡単服を作ってやろうじゃないか。
そんな訳で、布を貰ってクルタを作ろうと思いたったのだ。
ふふん。前世の《私》はお裁縫もできたのだ。よく子ども服を作っていた。
自分で作ろうと思っていたのだけど、話を聞いた衣装係さんとお針子さん達に取り囲まれてしまった。
当然だが、あちらはプロ。
即、デザインを理解し、私の考えていた物なんて比べ物にならないくらい素敵に仕上げられた。
クルタはスリットが取られ、緻密な模様の刺繍と襟の飾りが美しい、なんだか違う国の民族衣装の様になっていた。腰に飾り紐を巻いてもかわいい。
……ちょっと落ち込んだ。
自分で作っていたら寝間着にしかならなかっただろう……。
レオンが許可してくれたので、私はほぼ毎日庭を散歩している。
今日は青色のクルタを着て散歩することにした。とても楽だし着心地もいい。
そして華やかだ。ドレスと比べても遜色がない。
うん。王宮のお針子さんたちは本当にいい仕事をなさる。
髪は、私付きの侍女のアイシャが横だけ編み込んで後ろで留めてくれた。
どこからか出してきたクルタと同じ色の髪飾りで留めてある。
長い髪は邪魔だけどこの国に髪が短い女性はいないし、全部結い上げるのは夜会や式典の時で、ずっと結い上げているのは既婚女性だけと言われて諦めた。
アイシャは私の気持ちを考えて、髪が邪魔にならないよう毎日工夫して髪を留めてくれる。
部屋を出ると――閉じこもっていた時は気がつかなかったけど《宮殿》で働く人は多い。
覚えきれないほど様々な職種の、たくさんの人がいる。
挨拶をすると皆さん笑顔を返してくれて嬉しくなる。
横には護衛のエリサ。
エリサは何も言わなかったけど、部屋の中だけの護衛は不満だったと思う。
初めて一緒に外に出た時
エリサの顔が引き締まった騎士の顔へと変わった瞬間を私は忘れない。
私は顔を上げ背筋を伸ばす。
私は沢山の人に恵まれてここにいる。
沢山の人に受け入れてもらってここにいる。
その好意に応えよう。
私は『空の子』。
崇拝する人たちがいる『空』の子だ。
その名を持って生きる意味を考えよう。
過去より未来を見よう。
私を信じて愛しい娘に私の名をつけた騎士を裏切らないように。
この世にやってきたばかりの小さな、小さなチヒロに恥じないように。
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