この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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998年目

05 万華鏡 ※レオン

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 ※※※ レオン ※※※



「――え?」

中の模様を見ていた僕は、筒から顔を離し視線をシンに向ける。

「ああ、ごめん。聞いていなかった。で?何だっけ」

シンは気にした様子もなく淡々と言った。

「アイシャです。
彼女には結婚後、夫が自身の所属を教えることになっています、と」

「――ああ。それが良いだろうね」

「ええ。彼女は騎士です。
結婚し一緒に暮らすことになれば夫が《王家の盾》であることを隠し通せはしないでしょう。
途中で変に勘繰られ探られるくらいならば最初に話しておくべきだと判断しました」

ちょうど僕の手のひらほどの長さの筒をもてあそびながら僕は考える。

「彼女なら告げても問題ないという判断なんだね。
確かに秘してくれるだろうし、変わらず今まで通りでいてもくれるだろう。
だからそれは良いけれど。
彼女が辞めた場合、後任をどうするか。考えておいてくれるかな」

「は?」

「子ができたらすぐに剣を置いてもらいたいんだ。
後任が決まるまで続けさせるなんて無理はさせたくない」

「はい」

「そうは言っても、もうここ《南》に女性騎士はいないからね。
暫くはエリサの負担が増えてしまうかもしれないな」

「……そのエリサですが」

「エリサが何?」

「遠くないうちに、チヒロ様に《取られる》かもしれません」

「――チヒロもやるなあ」

僕は苦笑する。

シンの視線が僕の手の中に移ったのを感じた。

「――それはチヒロ様の言っていた《マンゲキョウ》ですか?」

「うん。チヒロがくれたんだけど。なかなか面白いよ、これ。
単純な仕組みなのにね。
少し回してやれば見える模様が全く別のものに変わる。
―――ふふ。少し回してやるだけだ。
それだけで筒の中身は大きく動き、見える模様は全く違うものになる。
気に入ったよ」

「……回しますか」

「仕組みが完成したらね。回すよ」

「そうですか」

「その時は約束通りただ見ていてくれるかなシン。
言っただろう?
―――あれは僕の獲物なんだ」

「――はい」

シンの声に僅かな躊躇いがあるのを気付かなかったことにする。
僕は《マンゲキョウ》を置き、立ち上がると執務机から離れた。

窓に近づけば微かに明るい笑い声が聞こえる。珍しいことだ。

会議室でアイシャの模擬結婚式をしている。そこからの声だろう。


一緒に参列しようと僕を誘うチヒロの声をふと思い出した。

――「幸せを分けてもらおうよ」――

意味がわからない。

幸せを分けてもらうとはどういうことか。
人の結婚式を見れば幸せになれるというのだろうか。

何を言うのやら。
チヒロの発想は本当に変わっている。

―――馬鹿馬鹿しい。僕には縁のないものだ。必要もない。

そう思うのに。

僕はなぜ一瞬、差し出された小さな白い手をとりたいと思ってしまったのだろう―――


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