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998年目
11 万華鏡 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
テオが万華鏡を仕上げてくれた。
私が挫折して放っておいた材料を使った物は随分前にできていた。
今回の物は万華鏡に魅せられたテオが何度も何度も試行錯誤し、工夫を凝らし、仕上げてくれた物だ。
予想もしていなかった物になっていた。
くるりと回せば信じられないほど緻密で美しい模様が見える。
しかもまるで宙に浮くボールのように。
「天才だわ……」
見える模様だけじゃなく、本体も美しく仕上げられた万華鏡を手に呟く。
どこをどうしたら夏休みの人気簡単工作がこんなふうに進化しているのか。
私にわかったのは、張り合わせている3枚の鏡の形が長方形じゃあなくなっている。そこだけ。
この国になかった《万華鏡》を持ち込んだのは確かに私だけれど、当の私の知識なんてとっくに超えている。
フライングディスクの時も思ったが、テオの器用さは私の感覚では異常な程だ。
機械のない、人の手で何もかも作るこの国では珍しいことではないのだろうか。
でもこれ、タダで貰っていい物じゃないよね?
「テオに、作った物に見合った賃金、ですか?」
「はい。あまりに素晴らしい物を作ってくれるので」
授業の終わり。
部屋を出ようとしていたセバス先生に相談したら首を傾げられた。
「材料費はレオン様に『空の子』様用の公費から出していただいておりますし、テオには《ここに来て仕事をしている》賃金を渡しておりますが。
それ以外に、ということですか?」
どんなに素晴らしい物を作ってもその技巧分が反映されていないのか。
それはそうか。でも、なら……。
「……なら、テオの作った物を売る権利をテオにあげてもいいでしょうか?」
「売る?」
万華鏡をセバス先生に見せる。
「はい。売れますよね?これ。だから、たくさん作って売れば……」
セバス先生は目を見開いて珍しく声を上げた。
「『空の子』様の知識から作った物を、ですか?!」
こちらの方が目を見開く。え?駄目?
セバス先生は頭に手を当てて、首を振った。
「いくらになるとお思いですか……」
さあ?
首を傾げるしかなかった。
「『空の子』様の知識から作られた物が広がるのが駄目だとは言いません。
現に貴女が考案したドレスは貴族のご婦人方にどんどん広まっている」
「はい」
見たことはないけれど、そうらしいので頷く。
「しかしあくまでそれは『空の子』様考案のデザインとして、です。
テオが作った物を売れば、テオに莫大な財産と、そして価値をつけてしまう。
それは……良いことばかりではないのです」
「どういうことでしょうか?」
「……チヒロ様。この国では養子が多く迎えられます。
平民ならば身寄りのない子どもを迎える場合が多いですが、貴族であれば優れた能力のある子を求めます。
自分の家を維持発展させるために」
「……」
「まずは親戚から。次に平民から。優れた子がいれば養子にします。
珍しい事ではありません。……我が主人がそうです」
それは、この国に来た日にシン本人から聞いていた。
シンは遠縁から主家に迎えられた養子だと。
―――300年前。
『空の子ソウマ・シン』さんを蔑み『空』を怒らせ国が荒れる原因を作った《愚王》。
その《愚王》が消えたあと、国を治めた新国王が王家を守ると同時に戒める存在として作った貴族《王家の盾》。
セバス先生から《王家の盾》は王家直属の、もうひとつの近衛隊みたいなものですと聞いた。
……つまり王家の《懐刀》?
もしくは前世テレビで見た時代劇の将軍直属の家臣《お庭番》とか《隠密》?
私にはそんなふうに想像することしかできない。
なんせ近衛隊のこともよく分からないもの。
それはそうだよね。
王族を守る人たちのことだもの。トップシークレットだ。
『空の子』→宇宙人に教えるはずもない。
まあそれはいいとして。
《王家の盾》は王家直属。
国の騎士団や近衛隊などとは違い、どこにも属さない。
当主が《シン・ソーマ》と名乗り騎士として近衛隊に所属している以外、表には出ていない。
だけど実は、一族全員が王家に忠誠を誓い、様々な武術に長けていて。
その技で、いざとなれば王家を守る。もしくは戒める一族だと言う。
その家の当主には当然、武術に優れた能力が求められる。
たとえ主家に何人も子どもがあったとしても、親戚の中にそれより優れた子がいれば、その子が主家に入り、一代限りではあるが当主となるのだそうだ。
《王家の盾》という特殊な家柄だからなのかと思っていたら、養子を取ることは貴族ではよくあることなんだ。
「この国は小さくありませんが、かといって大国ではありません。
国を盛り上げていく為には、能力がある者は取り立てる。それが最善ですから」
そう言えばセバス先生は授業でもそう教えてくれた。
私はそれをようやく思い出した。
「つまり、テオに万華鏡を売り出させれば、平民のテオが貴族の養子に望まれる可能性がある、ということですか?」
セバス先生は首を横にふった。
「そんな小さなものではありません。
すでにテオは『空の子』様と繋がる子どもです。
そのテオが『空の子』様の知識を具現化する者であり、膨大な財産を産む子どもであるとなれば……。
当然どの貴族でも喉から手が出るほど欲しいでしょうね。どんな手を使っても」
―――何それ
「……震えがきました」
「わかっていただけたようで何よりです」
セバス先生はにっこり笑った。
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