この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
78 / 197
999年目

02 新年 ※チヒロ

しおりを挟む



 ※※※ チヒロ ※※※



この国で二度目の新年を迎えた。

私はまた、みんなと一緒にひとつ歳をとった。

12歳になったのだ。

20歳になったエリサは綺麗になった。見惚れるほど。
いい恋をしているのだろうと思うと嬉しくなる。

そのエリサに「背も伸びたし、女性らしくなってきましたね」と言われて嬉しかった。

ふふん。自分でもそう思う。
この国に来てすぐにもらった男の子服は、丈も合わなくなったけど、何より胸のボタンがとめられなくなったもの。

しかし17歳になったレオンには
「ようやくテオと判別できるようになったね」と言われてしまった。

くそう。

そう言うレオンはまた背が伸びた。にょきにょき伸びちゃって。
私との身長差は開くばかりだ。私だって大きくなったのに。

シンは25歳に。
ジルといる姿を、侍女さん達が遠くから頬を染めて見つめているが、本人は全く気付いてなさそうだ。

……女心には鈍そうだもんね。私に《玩具》の懐剣をくれるくらいだし。

私の為に、わざわざテオに作らせたそうだ。……何それ。
女の子にする贈り物じゃないでしょう。どういう感覚してるのだ。

仕方がないので懐剣袋を作って入れてみたらこれが思いのほか可愛くて。
結構気に入ってしまったのは悔しいから内緒だ。

テオは私と同じく12歳になった。

なんと頭ひとつ分、私より背が高くなった。
顔も身体つきも、子どもから少年へと変わった。
……確かにレオンが言うように、もう私とは間違えられようもない。

「かわいいテオが大きくなっちゃった。寂しい」
と言ったらエリサに呆れられた。

テオは今、組子細工に夢中だ。

釘も接着剤も使わず、細く切った木のパーツに切れ込みや凹凸を作って組み合わせ、美しい幾何学模様を作る細工。
寸分の狂いも許されないような難しい細工にテオは夢中になって挑戦している。

前世の「私」が一度、キットを使って小さなコースターを作った話をしたら飛びついてしまった。
「私」がいた小さな国の幾何学な文様がかなり気に入っていたから、それも原因かもしれない。

テオは本当に細かい細工物が好きだ。
新しい万華鏡にも挑戦中だったけど、今はひとやすみ。

シンの屋敷で作成しているので会えなくてちょっと寂しいけど。
どんな物を作り上げてくれるか、楽しみに待っている。

セバス先生はお元気で変わらず授業をしに来てくれる。
お歳を聞こうとしたらエリサに口を塞がれた。

王宮医師のロウエン先生にもお歳を聞こうとしたらやっぱりエリサに口を塞がれた。

……この国では男性にお歳を聞いてはいけないらしい。
理由はよくわからないけど。


死病の特効薬はまだ成功していない。
唯一手に入らない、材料となる植物にかわるものが見つかっていないのだ。

希望が見えたと思ったあの、ほんの少し黒く光っていた植物も、結局枯れてしまった。

王宮にいて、貴族の皆さんから届けられる植物を待ってだけじゃなく、もっと何かできないかな。

あの、ほんの少し黒く光る植物があるという国境近くの高山か、唯一あの薬が作られている国に行きたいけどレオンに「却下」されている。

……わかるけど。王宮の外にもまだ出してもらえてないし。


王太子妃様とは相変わらず仲良し。楽しい方で大好きだ。
現在、二人目を妊娠中でいらっしゃる。

第一子の王子様は、今や乳母を引き連れ走り回っている。
私が行くと喜んで、抱きついて頬にキスしてくれるのが本当に可愛い。
王太子妃様はそれを見て「チヒロは私の王子の初恋相手のようね」とからかう。

王宮の衣装係さんとお針子さん達とは、侍女さんのお仕着せを完成させた。

実際に着て働く侍女さんたちの意見をレオンがまとめ、私と衣装係さんがデザインを考え、お針子さんたちが作り。

何度も何度も試行錯誤して完成させたお仕着せは、動きやすいと侍女さんたちからとても喜んでもらえた。

寒い北の季節も温かく快適だそう。
担当する《宮》ごとに一部色を変えたのも好評。

嬉しくなる。
でもちょっと残念。アイシャにも、着て欲しかったなあ…………。

アイシャは初めての赤ちゃんを授かって、侍女を辞めたのだ。
すごく幸せなことなのに、それでも別れはやっぱり寂しい。

でも「産まれたら親子で会いに来ていいですか?」と言ってくれたので、寂しいけど、その日を楽しみにしている。

どうか親子共に無事に出産してくれますように。
ちなみに子どもは男女どちらでも「チヒロ」と名付けるそうだ。嬉しい!

「嬉しいけどシンの部下の騎士さんの子と名前が一緒になっちゃうよ?」
と言ったら、それを聞いていたシンが

「ーーああ、いつか私が言ったあれは嘘です」
と、しれっと言った。

…………うん。わかってた。そうかも、とは思ってた。

私が落ち込んでた時に、私の名を付けられた赤ちゃんの話ができる、なんてタイミング良すぎだよね。

話を聞いたレオンは大笑いした。なんだか悔しい。

ムッとしてシンに「嘘つき」と言うと、シンは

「嘘ではありません。
今度、屋敷の者が産まれる子どもに“チヒロ”と名付けるそうですので、本当になります」

と、またしれっと言った。

レオンはさらに笑った。

なんて人なのだ。
私も可笑しくなって笑うしかなかった。

そんなシンのおかげで、もう『空』に戻された『空の子ソウマ・シン』さんのことを思い出しても気持ちは穏やかだ。

私は相変わらず、やっぱりシンには頭があがらない。


テオが作ったフライングディスクは今や騎士さんの遊びの定番になっている。

練習場で行うそれはまるで格闘技のようだとエリサに聞いた。
多分、エリサも混ざっているんだろう。あちこち傷を作っている。

第2王子は臣下籍になり、王宮を去った。
今後はリューク公と呼ばれるらしい。

王太子妃様から元・王子妃であり現リューク公夫人のシャナイア様が、私に感謝していたと聞いたが理由がわからない。

王太子妃様は、ただ笑って次の3人でのお茶会はいつにする?と聞いて下さったので悪い意味ではないのかな?と思う。
シャナイア様には幸せでいて欲しい。一応、リューク公も。


ねえ、見えていますか?


私は変わらず毎日、空を見上げて祈る。

この幸せがあなたに届きますように、と。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

処理中です...