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1000年目

14 旅路 ※エリサ

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 ※※※ エリサ ※※※



「ええー。ひどいなあ」

《男》はいつものふざけた調子で言った。

全く、腹立たしい。

何が「俺も行く」だ。
《お花摘み》の意味を知らないのか。

バカはほっといてチヒロ様と《お花摘み》に行くことにする。
私たちが座ったのは一番奥のテーブルだから、目と鼻の先だ。

お手洗いは広く小さな部屋ほどの広さだった。

家内側に個室。壁際には手を洗う洗面台が置かれている。
明りをとるための窓は幼い子どもでも入れないほどに細長い。

この食堂は、この町の警備隊の者もよく使うと聞いている。
悪人に不意打ちされない工夫であるのかもしれない。

チヒロ様を待つ間。
そんなことを考えながら見ていた細長い窓の外に一瞬、影が見えた。

息を殺す。
懐の《カイケン》の位置を確かめ、影が見える位置までそっと移動する。

見ると――影の主はこちらに背を向け立っていた。

《あの男》だとすぐにわかった。

外に見張りに出たのだ。
「お花摘みに一緒に行く」なんてふざけた事を言って。

この後、私から外にいた事を指摘されれば――「外で《お花摘み》を済ませた」
とかなんとか。またふざけた事を言うんだろう。

なんでもないように。笑いながら―――。

……どうしてついて来た。

《このため》ではないのか。
誰の命令だ。《殿下》か?お前の《主人》――副隊長か?

そうでないのなら《何故》ついて来た。

行き先は四年前。
お前が酷い怪我を負い、連れ帰ったテオの故郷である高山……。

チヒロ様に頼まれたと言った。
お前は《何故》、一緒にいるのだ。

どうせ言わないのだろう。私には。
本当ことは言わずごまかしてばかり。

いつもそうだ。
いつもいつも。

それなのに。
私は、ただこうしていてくれるだけで嬉しいと思ってしまう。

どうしてなのだ。

自分の心なのに
全く思うようにならない。

どうしてここまで心を乱される?
《あの男》の行動ひとつで私の平静は破られる。

いつもの私ではいられなくなる。

《あの男》に踊らされて、振り回されて、傷つけられて。
もう嫌だ。もうたくさんだと心底おもうのに、それでも。

《あの男》に惹かれ囚われる。

悔しい。

どうして《あいつ》なのだ。
この世には数多の人がいる中で何故。

それでも
《あの男》でなければ嫌だ、なんて。

どうかしてる。私は―――――。


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