この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
135 / 197
1000年目

27 義兄1 ※空

しおりを挟む



 ※※※ 空 ※※※



「まだ見つからないのか!この役立たずどもが!」

男に役立たずと言われた者たちが首を垂れる。
それすらも気に入らなかったのだろう。

「もうよい!!」と話を終わらせて、男はひとり自分の私室に入った。

乱暴にドアを閉め、苛々とした様子でカウンターの上から酒瓶を取ると自らグラスに酒をつぎ、一気に飲み干した。

空になったグラスをカウンターの上に乱暴に戻す。
そしてその身を暖炉の前に置かれた重厚なソファーにおろした。

「くそっ。いったいどうなっている」

男が忌々しそうに大きく息を吐いた時だった。


「こんばんは、ダザル卿」

いきなりの声に男がぎょっとする。

「誰だ!」

男は慌てて薄暗い部屋の中を見まわした。
ほどなくしてベランダへと続く窓の手前に立つ声の主に気付いたようだ。
声の主の顔を凝視して、男――ダザル卿は眉根を寄せた。

「………サージアズ卿?」

サージアズ卿は笑みを浮かべお辞儀をした。

「はい。ご無沙汰しております。
いつぞや《王宮》でお会いして以来でしょうか。
我が領地のお酒を気に入っていただけたようで、大変光栄です」

「……何故、貴方がここにいる。
酒を持ってきてくれたのか?しかし一体、どうやってこの部屋に入った?」

「ご挨拶に伺ったんですよ。隣の領地を任されたものでね」

「隣?……あの長く領主が決まらなかった土地のことか?
確かにあそこには新領主が入ったと聞いてはいるが。それは貴方ではない。確か……」

「コドリッド伯」

「そうだ、コドリッド伯が――」

「――私です」

「何?」

「私の名前ですよ。そう。3つ目の、ね」

「3つ目?」

サージアズ卿は微笑むとカウンターの前まで移動した。
胸元から砂時計を取り出し、先程ダザル卿が置いたグラスの横に置く。

「まあそれはいいでしょう。それより。
とうとう『空の子』様は見つけられなかったようですね」

「……何のことだ」

グラスの横に置かれた砂時計を見ながらダザル卿が言った。
サージアズ卿は微笑んだままだ。

「隠さなくてもよろしいのですよ。全部把握しております。
貴方が『空の子』様を捕らえようとしていたことは」

「何を言うのか!そんなことはしておらぬ!
……第一、『空の子』様は《王宮》の《南の宮》におられるはずだろう。
私に何ができるというのだ」

「おや、ご存知ないのですか?
『空の子』様は今、ここ――貴方のご領地にいらっしゃいますよ。
先日、私もお見かけしましたからね。確かです」

「何っ?!どこで見た!」

ダザル卿ははっとして顔色を変えた。
サージアズ卿はくすりと笑う。

「やはりご存知でいらした」

「知らん!驚いただけだ!」

「御子息が全てお話ししてくださいましたよ。
貴方と二人で『空の子』様を捕えようと躍起になっていたと、私に全て打ち明けてくださいました。
御子息は『空の子』様に危害を加えることに恐れをなしたようですね」

「何っ?!息子が?そんな馬鹿な!」

「今はお薬を飲んで眠っていらっしゃいますが」

「――っ貴様!まさか息子に自白剤を!」

「ああ、語るに落ちましたね。自白剤を飲めば御子息は認めるわけですね。
『空の子』様を襲おうとしたことを。
助かりましたよ。
『空の子』様のお話を聞くのは貴方だけで良さそうですね。
なにせ、お話しいただける時間には《限り》がありますので。
無駄は省きたいんですよ。
御子息には《横領》など、お仕事のお話しを山ほど聞かねばなりませんしね」

ダザル卿は何か言いたげに口を開けたが声は出なかった。
かわりのように頭を横に振る。

額に手をやった。
その身体がぐらりと揺れ、ソファーに沈む。

サージアズ卿はそんなダザル卿を見ながら続ける。

「――さて、では貴方の方にお聞きしましょうか。
何故『空の子』様を狙ったんでしょう。
ああ、もしかしたら第3王子殿下の祈りで現れた、というのが気に入らなかったのですか?
何故でしょうか。
第3王子殿下を気にする必要などなかったでしょう?
貴方は前王妃様の父上で国王陛下の義父。そして王太子殿下の外祖父だ。
その地位は不動のものであったでしょうに」

ダザル卿が完全に目を閉じたのを見届けると、サージアズ卿は砂時計を逆さに置きなおした。

さらさらと砂が流れ落ちていく。

サージアズ卿は静かに言った。


ーーーさあ。話していただけますか?その胸の内を。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...