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1000年目
31 テオの将来 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
テオの一族の皆さんのところに随分と長居をしてしまった。
医師二人が(一応)気が済むまで高山を調べ終わり、セバス先生に
「明日にはコドリッド伯のお屋敷に戻りましょう」と言われた日。
私はテオのご両親に、三人で話をする時間を設けてもらった。
三人になると、私はテオのお父さんの前に紙の包みを差し出した。
テオのお父さんが包みをほどく。
中にあった物を見て、テオのお父さんの目が変わった。
【これは……】
【組子細工と言います。テオが作りました】
テオのお父さんが包みの中の物から私に目を移す。
【これも……貴女がテオに教えてくださったのですか?】
【こちらは教えたと言うか……簡単な説明をしただけです。
それをテオが試行錯誤して、ここまでに】
釘も接着剤も使わず、細く切った木のパーツに切れ込みや凹凸を作って組み合わせ、美しい幾何学模様を作る細工。
寸分の狂いも許されないような難しい細工だが、テオは見事に作ってみせた。
まだここまで――鍋敷きくらいの大きさまでだけれど。
衝立だって、窓だって、ドアだって。壁一面を飾る物だって作れるはずだ。
職人の血が騒ぐのだろう。
テオのお父さんは組子細工の鍋敷きを手に取ると、真剣に見はじめた。
くるくると。何度も角度を変えて見る。
【テオは『空の子』様の――貴女の知る技術を現実のものにしているのですか】
【はい】
テオのお父さんは手で顔を覆った。
感嘆しているようにも、恐怖しているようにも見える。
やがて言った。
【テオは……貴女は……《それら》をどうしようと……】
【作りませんか?ここで。皆さんで】
【私たちがですか?!】
テオのお父さんはもう一度、組子細工を見た。
【それは……もちろん興味はあります。
いや……出来たら作りたい。ですが。
我ら一族は少数です。他とは極力関わらないように生きている。
そんな我々が『空の子』様の知る物を作っては――】
【――あ、そこは大丈夫です。私は無関係なので】
【は……?】
【この組子細工をはじめ、これからテオが作る物は全て《テオの》考案した物。
それならば――どうですか?】
【……貴女はテオに全ての権利を譲ってくださると。そう言われるのですか?】
【譲るも何も。私は何もしていません。
ちょっとテオに《変わった話》をしただけ。形にしているのはテオだもの。
作るのも売るのも、テオに権利があって当然でしょう?】
テオのお父さんとお母さんは顔を見合わせた。
組子細工を握りしめて、お父さんが言った。
【―――テオは……息子は、なんと?】
【この話はまだテオにはしていません。テオはただ作るのに夢中で……。
今回のこの作品も、自分がしていることを見てもらいたいからと託されました】
【そうですか……】
【私がご両親に相談させていただきたかったのです。
今後、《これ》をどうするのが良いのかを。
……もしここで作ることを引き受けてくださっても形になるのはまだまだ先。
どう売るか。
どうやって《生産地》を隠すか。
まだ何も考えていないんです。
だから、返事はいりません。
ですが。
ここまでテオが一生懸命、作り上げた物なんです。
どうするのが一番良いか、考えていただけないでしょうか】
【……貴女はどうしてテオにそこまでしてくださるのですか】
【うーん。なんとなく?】
【なんとなく?】
【他人っていう気がしないんです。テオのこと】
笑いながら、今度はテオのお母さんに紙包を差し出した。
【どうぞ。これはお母様にと預かりました。
お渡しするのが遅くなってすみません。
これも私の《変わった話》を聞いてテオが工夫し作り上げたものです】
【これは?】
【万華鏡と言います。おもちゃなんですけど。綺麗ですよ。
筒をこちらからのぞいて――回すと見える模様が変わります】
テオが新しく作り上げた万華鏡。
今度のそれは模様を作る素材が透明な液の中に入って筒の先端に付いている。
私が、そんな万華鏡を見たことがあるのを思い出してテオに話した。
その話を聞いたテオが工夫して作り上げたものだ。
一度は万華鏡を回しながらのぞいていたお母さんだったがすぐに涙を溢した。
【あの子は私が青色の……細かい模様が好きなことを覚えていてくれたんですね】
声を詰まらせ言ったお母さんの肩に、テオのお父さんが手をやった。
【『空の子』様。もう十分だとテオに――息子に伝えていただけませんか。
約束は果たされた。ルミナとのことは認める。いつでも帰って来るがいいと。
そう伝えてください】
テオのお父さんも声を詰まらせそう言った。
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