この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
139 / 197
1000年目

31 テオの将来 ※チヒロ

しおりを挟む



 ※※※ チヒロ ※※※



テオの一族の皆さんのところに随分と長居をしてしまった。

医師二人が(一応)気が済むまで高山を調べ終わり、セバス先生に
「明日にはコドリッド伯のお屋敷に戻りましょう」と言われた日。

私はテオのご両親に、三人で話をする時間を設けてもらった。

三人になると、私はテオのお父さんの前に紙の包みを差し出した。
テオのお父さんが包みをほどく。

中にあった物を見て、テオのお父さんの目が変わった。

【これは……】

【組子細工と言います。テオが作りました】

テオのお父さんが包みの中の物から私に目を移す。

【これも……貴女がテオに教えてくださったのですか?】

【こちらは教えたと言うか……簡単な説明をしただけです。
それをテオが試行錯誤して、ここまでに】

釘も接着剤も使わず、細く切った木のパーツに切れ込みや凹凸を作って組み合わせ、美しい幾何学模様を作る細工。
寸分の狂いも許されないような難しい細工だが、テオは見事に作ってみせた。

まだここまで――鍋敷きくらいの大きさまでだけれど。
衝立だって、窓だって、ドアだって。壁一面を飾る物だって作れるはずだ。

職人の血が騒ぐのだろう。
テオのお父さんは組子細工の鍋敷きを手に取ると、真剣に見はじめた。
くるくると。何度も角度を変えて見る。

【テオは『空の子』様の――貴女の知る技術を現実のものにしているのですか】

【はい】

テオのお父さんは手で顔を覆った。
感嘆しているようにも、恐怖しているようにも見える。

やがて言った。

【テオは……貴女は……《それら》をどうしようと……】

【作りませんか?ここで。皆さんで】

【私たちがですか?!】

テオのお父さんはもう一度、組子細工を見た。

【それは……もちろん興味はあります。
いや……出来たら作りたい。ですが。
我ら一族は少数です。他とは極力関わらないように生きている。
そんな我々が『空の子』様の知る物を作っては――】

【――あ、そこは大丈夫です。私は無関係なので】

【は……?】

【この組子細工をはじめ、これからテオが作る物は全て《テオの》考案した物。
それならば――どうですか?】

【……貴女はテオに全ての権利を譲ってくださると。そう言われるのですか?】

【譲るも何も。私は何もしていません。
ちょっとテオに《変わった話》をしただけ。形にしているのはテオだもの。
作るのも売るのも、テオに権利があって当然でしょう?】

テオのお父さんとお母さんは顔を見合わせた。
組子細工を握りしめて、お父さんが言った。

【―――テオは……息子は、なんと?】

【この話はまだテオにはしていません。テオはただ作るのに夢中で……。
今回のこの作品も、自分がしていることを見てもらいたいからと託されました】

【そうですか……】

【私がご両親に相談させていただきたかったのです。
今後、《これ》をどうするのが良いのかを。
……もしここで作ることを引き受けてくださっても形になるのはまだまだ先。
どう売るか。
どうやって《生産地》を隠すか。
まだ何も考えていないんです。
だから、返事はいりません。
ですが。
ここまでテオが一生懸命、作り上げた物なんです。
どうするのが一番良いか、考えていただけないでしょうか】

【……貴女はどうしてテオにそこまでしてくださるのですか】

【うーん。なんとなく?】

【なんとなく?】

【他人っていう気がしないんです。テオのこと】

笑いながら、今度はテオのお母さんに紙包を差し出した。

【どうぞ。これはお母様にと預かりました。
お渡しするのが遅くなってすみません。
これも私の《変わった話》を聞いてテオが工夫し作り上げたものです】

【これは?】

【万華鏡と言います。おもちゃなんですけど。綺麗ですよ。
筒をこちらからのぞいて――回すと見える模様が変わります】

テオが新しく作り上げた万華鏡。
今度のそれは模様を作る素材が透明な液の中に入って筒の先端に付いている。

私が、そんな万華鏡を見たことがあるのを思い出してテオに話した。
その話を聞いたテオが工夫して作り上げたものだ。

一度は万華鏡を回しながらのぞいていたお母さんだったがすぐに涙を溢した。

【あの子は私が青色の……細かい模様が好きなことを覚えていてくれたんですね】

声を詰まらせ言ったお母さんの肩に、テオのお父さんが手をやった。

【『空の子』様。もう十分だとテオに――息子に伝えていただけませんか。
約束は果たされた。ルミナとのことは認める。いつでも帰って来るがいいと。
そう伝えてください】

テオのお父さんも声を詰まらせそう言った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...