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02 崩れる ※新郎アルノルトside
しおりを挟む「失礼しました。ドアが少し開いておりましたので」
アリアネル王女の言葉にフリントが青くなった。
ダルトンがフリントを睨んだ。
この休憩室まで私を引きずるようにして来たのが体格の良いダルトンで、細身のフリントはただ後からついて来た。
ダルトンは当然、最後に入ったフリントがドアを閉め、鍵をかけたと思っていたのだろう。私もだ。
ああ、そういえば。
まずダルトンが私をソファーに座らせ、置いてあった水差しとグラスの方へ行った。
しかし酔っていた私はずるずるとソファーを滑り落ちていってしまった。
それでフリントが慌てて駆け寄ってきて、座り直させてくれたのだ。
私に気を取られ、フリントはドアを閉めるのもそこそこになってしまったのだろう。
つまり私のせいだ。
と、妙に冷静に分析をしていた私だったが、それどころではなかった。
背中に冷たいものが走る。
いつからだ?
いつからアリアネル王女はドアのことろにいた。
話を聞かれただろうか。
聞かれたとしたら、どこから聞かれていた?
聞くわけにもいかない。
だからわからないが、少なくとも最後の言葉は……聞かれてしまっただろう。
どくんどくんと胸の鼓動が強く早くなっている。
しかし落ち着け、と私は自分に言い聞かせた。
落ち着け。
――「消えてくれたらいいのに」――
そうは言ったが私は誰が、とは言っていない。
いくらでも、誤魔化せるのではないか?
「ご気分が悪そうでしたので、心配で追いかけて来たのですが」
王女は白銀の髪を揺らして言った。
私は立ち上がり、笑顔を作ると頭を下げた。
「そうでしたか。申し訳ありません。心配をおかけしました。
少々飲みすぎてしまったようで。もう少し休めば平気です」
気にされているようには見えなかった。
部屋の外にいた王女には、部屋の中の会話はよく聞き取れなかったのかもしれない。
私はほっと胸を撫で下ろした。
だが次の瞬間―――
「そうですか。良かった。では私は消えますね」
王女はそう言って微笑み背中を向けた。
息が止まった。
何か言わなくては、と思ったが言葉が出なかった。
去って行く王女の後ろで、王女付きの侍女が物凄い顔で睨んできた。
全てを聞かれてしまったのだ、と。
察するには十分だった。
私は立ち上がったばかりのソファーにへなへなと倒れこんだ。
「―――おいっ!どうするんだ!」
「まずいぞ!早く追いかけて謝罪しろ!」
フリントとダルトンが私を揺さぶったが、私にそんな気力はなかった。
「ちゃんと謝罪の言葉を考えてから行かせてくれ」
そう言うのが精一杯だった。
焦って追いかけ言い訳すれば、ぼろがでるに決まっている。
よく考えてから会場へ向かい謝罪すればいい。
そうでなくても私たちは夫婦になったのだし、時間はたっぷりある。
私はそう考えていた。
フリントとダルトンもだろう。二人がそれ以上言うことはなかった。
しかし
王女と会うことは二度となかった。
私だけではない。
誰もが
二度と、アリアネル王女に会うことはなかった。
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