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04 翠玉の瞳 ※新郎アルノルトside
しおりを挟む―――第二夫人―――
この国は一夫一婦制だ。
愛人、愛妾は持っても第二夫人を持った例は――いや、第二夫人という言葉もない。
だが国王陛下は私に《恋人サラを第二夫人にせよ》と命じられた。
侍女で平民の……サラを。
国王陛下はご存じなのだ。
私とアリアネル王女の間に何があったのか。私がどんな言葉を吐いたのか。
そうとしか思えなかった。
いや……もしご存じなくとも王女がいなくなる直前に会ったのは私だ。
王女がいなくなった原因は私だと思われない方がおかしい。
王命は。自ら消えるほど王女を深く傷つけた私への――そして侯爵家への罰だった。
「お前はいったい王女に何をしたんだ!
なんということをしてくれた!」
帰宅後、父は激怒し私を罵った。当然だ。
しかしもうどうしようもない。
王命である。
次の日、父は動いた。
サラを私の第二夫人にするしかないのだから。
サラを養女に迎えてくれないか。
父と二人で親しい貴族、親族、果ては下位貴族にまで内々に頼みに行ったが、ことごとく断られた。
国王陛下がアリアネル王女を溺愛していたことは皆、知っている。
その王女の夫である私に、国王陛下は《恋人を第二夫人を迎えろ》と命じられたのだ。
何かあると思わない方がおかしい。
いくら報酬を貰っても関わりたくないと、どの貴族も思ったのだろう。
こちらもサラを貴族の養女にすることを『国王陛下は何と?』と問われれば引くしかなかった。
王命は《恋人サラ》を第二夫人とすること。
《貴族の養女サラ》を、ではないのだから。
結局、私は王命に従いサラを第二夫人に迎えた。
行方不明であっても王女の妻を持つ私が、次期侯爵の座をおりることはできない。
サラは前代未聞の、平民の、次期侯爵の第二夫人となった。
結婚式などできるはずもなく、届けにサインしただけだったが、サラは確かに私の妻となった。
理由はともあれ、私は愛する人を妻にできた。
だが私は
少しも喜べなかった。
侯爵家の一員となったサラには、私の両親と元同僚である使用人たちの刺すような目の中での暮らしが待っていた。
厳しい淑女教育も受けることになった。
辛かっただろうが、それでもサラは何とか日々を過ごしていった。
私の第一夫人はアリアネル王女だが、王女は行方不明だ。
社交は夫妻での参加を求められる正式な場も含め、全て第二夫人のサラが出席することになった。
愛人、愛妾なら必要ないが、サラは第二《夫人》だ。
出てもらうしかない。
……しかし、結婚後に始めた淑女教育が、居並ぶ貴族の女性たちに及ぶはずはない。
しかもあり得ない《第二夫人》。
嘲りや侮蔑の目。嘲笑。
サラは痩せ細り、いつも顔色は悪く、そして笑わなくなった。
何度も離縁を求められるようになった。
たが、私たちの結婚は王命だ。それはできない。
そう説得するうちにサラは狂ったように「貴方のせいで!」と私に恨みの言葉を吐くようになった。
それから私たちは別々に日々を過ごしている。
このままではいけないとは思ったが、どうにもできずに日だけが過ぎていく。
父は跡継ぎ問題で頭を抱えていた。
私は次期侯爵。
跡継ぎは必須だ。
だが……私とサラの関係はもう終わっていた。
そうでなかったとしても国王陛下の怒りをかった私と、平民の第二夫人サラの子ではきっと生涯――末代まで蔑まれることだろう。
わずか数ヶ月だった。
わずか数ヶ月で、私の心は壊れ動かなくなった。
何も感じなくなった。侯爵家のことも。あれほど愛したサラのことも。
友人たちとも疎遠になっていた。
フリントは文官を辞め、体調不良を理由に屋敷に閉じこもっている。
ダルトンは近衛騎士を辞め、辺境へと旅立って行った。
そして私は……。
王宮の外れにある小さな池をいつも夢に見る。
寝ても覚めても
湧水量が豊富で透明度は高く水深は深く。
吸い込まれそうな翠玉色の池の夢を。
私は池に入って行く。
あの翠玉色の中へと深く深く、吸い込まれていく。
アリアネルという名の通りの白銀の髪。透き通るような白い肌をした王女の瞳と同じ色の中に落ちていく―――――
私は
あの翠玉色に深く深く囚われ動けない。
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