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4 侯爵家子息ジェイデンside

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歩けば使用人たちが次々に首を垂れる。
その中を、ぴんと背筋を伸ばした父が颯爽と歩いていく。

幼い頃。
父は俺の憧れだった。

執務をする横顔は厳しくて。
しかし、俺や母といる時はとびきり優しくて。

大好きだった。
いつか、俺も父のような侯爵になるんだ。
そう夢見ていた。


それを打ち砕かれたのは八歳の時。

何かが大量に割れる音に、聞いたことのない母の大きな罵声を聞いて、慌てて両親の部屋へ行った時だ。

父には母ではない最愛の女性がいることを知った。
その女性が母の双子の妹エレノーラ――俺の叔母で。
二人は頻繁に会っていて、そして。
エレノーラが父の子を身に宿したことを知った。

今まで俺と母を愛してくれていると思っていた父の、本当の顔を知った。

平然と、父は俺と母を裏切っていたのだ。
裏切っていることを隠すために、俺と母にあれほど優しかったのだ。

俺の妹を妊娠中だった母は発狂したようになり
一時は母子ともに危険が及ぶかもしれないと医師がつきっきりになった。

入ることを禁じられた母の休む部屋の前で涙を流す俺に
騒動以来、初めて声をかけてきた父の手を、俺ははらった。


「―――触るなっ!穢らわしいっ!!」


憧れだった父は
憎んでも憎みきれない存在になった。


◆◇◆◇◆◇◆


あれから母は変わった。
俺も変わった。

10年間、行方をくらませていたエレノーラが修道院で亡くなっても
決して許せないほどの憎悪はそのまま消えなかった。

「もう昔のことよ。
それに残されたエレノーラの娘エミリアには何の罪もないわ」

母にそう言われた父は母に感謝し、エミリアを養女として引き取ったが。

馬鹿だ。

何年経とうが裏切られた方は許せるはずがないのに。
一生、許せはしないのに。

「エミリアを私の妻にします。
《いとこ同士》だ。なら、結婚は許されるでしょう?」

そう言って笑ってやった時の父の顔は忘れない。


俺と母の恨みがどれほどのものか知ればいい。

だからエミリアを一生この家に閉じ込める。
《俺の妻で侯爵夫人》だと言う名で
一生、父を苦しめるための人質にしてやる。


そう思っていたのに。
エミリアをまさか王太子殿下に取られるなんて。


「《エミリア》の奴。王宮でいったい何をしたんだ」


俺は唇を噛んだ。


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