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29 手記 エレノーラside
しおりを挟む泣けるだけ泣いた。
お姉様が私の愛する婚約者ミゲル様の妻となることも
私が、お姉様の婚約者だった男性と結婚しなければいけなくなったのも
悪夢としか思えなかった。
自死を考えた。
思いとどまったのは庶民の使う小さな宿で、ミゲル様が涙を流し言って下さったからだ。
姉の目を盗んで私と毎月、必ず会うと。
そして「互いの跡継ぎが育ったら恋人だと公表しよう」と。
それだけが、私が生きていける理由になった。
家に帰ればお父様もお母様も涙を流して迎えてくれた。
お姉様に
「ごめんなさいね。貴女の大切な人を奪って。
でもきっといつか貴女はこれで良かったと思う日が来るわよ。
だって弱い貴女に侯爵夫人が務まるわけないもの」
と勝ち誇ったように言われた時は絶望した。
でも
「汚らしい手を使って侯爵夫人に収まったお前こそ務まるはずがないわ!」
とお母様が。
「妹の愛する婚約者を奪うなど正気の沙汰とは思えん!
出て行け!この人でなしめ!」
とお父様が言い、お姉様を家から追い出したので、私は救われた気持ちになった。
それからは月に一度、ミゲル様に会う日のためだけに生きた。
ミゲル様へ想いを込めた手紙を書くためだけに毎日を過ごした。
私の夫となった男性は、優しく良い人だったけど。
私の愛する気持ちはミゲル様にしか向かなかった。
ミゲル様も、私だけを想ってくださる。
そう思っていた。
―――けれど……
私は気づいてしまった。
逢瀬を重ねるうちに。
ミゲル様の気持ちが少しずつ私から離れていったことに。
そして……お姉様へと傾いていったことに。
月日が経ち、お姉様は立派な侯爵夫人になっていた。
妹の婚約者だった主人を卑劣な手で奪い、夫人に収まった強欲で汚い姉だと屋敷の使用人たちから白い目を向けられても
下位貴族の娘だと他の高位貴族の奥様方から蔑まれようとも
お姉様は決して折れなかったのだ。
負けず嫌いな、強いお姉様らしかった。
そしてもうひとつ、気がついた。
後々までどれほど罵られるかわかっていただろうに、薬を使って私からミゲル様を奪い。
きっと血を吐くような努力の末に誰からも認められる侯爵夫人となった。
お姉様をそこまで動かした原動力はきっと、ミゲル様への愛だと。
お姉様も愛してしまったのだ。
私と同じ人を。
そして、いつしかミゲル様は
お姉様を愛するようになった。
私ではなく、強いお姉様を―――――
笑ってしまったわ。
なあに?
私は、ただの道化?
応援ありがとうございます!
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