リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
11 / 15

11 襲撃 ※戦闘表現あり

しおりを挟む



あいつがいなくなっても俺は兵士だ。
魔物から皆を守るという大切な任務がある。

俺は休むことなく砦に立ち続けた。
魔物を見張り、魔物を発見すれば鐘を打ち、村に知らせてから待機中の仲間と撃って出た。
そしてへとへとになって帰る。
その繰り返し。

そうして気がつけば、あいつを見送ってから、二月ふたつきが過ぎていた。
雪の季節の終わりが近づいていた。


「今年は大きい魔物が少ないね」

その日。
砦で待機中にカールが言って、タニアと俺、他に一緒にいた兵士たちも同意した。

「そうだな。おかげで少しは楽ができた」

「助かるよな」

「ああ。おかげで今のところ死者は出ていないし、怪我した奴も少ない」

「何よりだ」

皆でほうっと息を吐いた。


獣がそうであるように、魔物の大きさも様々だ。
馬くらいの魔物もいれば、家くらいの魔物もいる。
そして、それ以上にでかい魔物もいる。

討つのが大変なのはどれも変わらない。
どれも人間よりはでかいし、素早い。

そして厄介なのが火で燃えるところだ。

魔物は、それはよく燃える。
が、火をつけたらすぐに絶命するわけじゃない。

まるで蝋燭のように、息絶えるまでに長い時間がかかるのだ。
苦しいのかその間、狂ったように暴れ回る。

おかげで大砲は使えない。

魔物に大砲を使えば
ものすごい速さで暴れ回る、巨大な火の玉を生み出してしまう。

投石器くらいなら使える。
だが素早い魔物に確実に当てるのは難しい。

どうしても弓か槍か斧か。
もしくは剣で討伐することになる。

だから大きい魔物ほど、倒すのは難しくなる。

近づいて攻撃することができないからだ。
近づけば人間など、容易く仕留められてしまう。


「このまま、早く雪の季節が終わって欲しいよ」

とタニアが言い、みんなが頷いた。

大きい魔物が現れることは少ない年だったが、
雪の多い年ではあった。

暦の上ではもうじきに雪の季節は終わるはずなのに、
砦の周りはまだ一面の銀世界だ。

「また降ってきたな」

誰かの声に、皆が空を見上げ顔を顰めた。


見張り台の上から叫び声が聞こえたのはそれと同時だった。

「―――魔物だっ!大きい!―――それも五匹いるっ!」


―――たちの悪い冗談かと思った。


魔物は群れたりしない。
群れで現れたことなどない。

一度、三匹――それも小さいヤツがばらばらと現れたことがあるくらいだ。

大きい魔物が複数同時に現れたことはない。

だが、
見張りの顔は―――――


魔物が現れたことを知らせる鐘がけたたましく鳴らされた。

それだけでは足りないと村に事態を知らせる伝令が走った。
任務明けで寝ている奴だろうが、村にいる兵士全員を呼ぶ必要がある。

そこからはもう夢中だった。

とにかく魔物の足を止めること。
それだけを考えた。

まず一番最初に向かって来た魔物からだ。
足を集中して狙う。
一匹ごとに息の根を止めている場合じゃない。

とにかく五匹全ての魔物を動けなくしなくては。
村へ行かせるわけにはいかない。
ここで止めなくては。

きっと全員が、ただその為だけに動いていた。

だが……数が多すぎる!


最初に向かって来た魔物は足を射て動けなくした。

だがそいつが盾となって邪魔をした。
矢を放っても後から来た魔物の足には届かない。

後から来た魔物は、動けなくなっていた魔物を踏みつけてこちらへ向かってきた。

足を射て止める前に、五匹のうちの二匹が砦の下まで来た。
石垣などものともしない大きさだ。
二匹の魔物は石垣を砕くと、すぐに砦の上に向かって登りだした。

そのまた後ろから、残るもう二匹も砦へ向かってきている。


「リアン!ダメだ!数が多すぎる!もたないよ!
もう無理だ!」

横にいたタニアが堪らず叫んだ。

引き続けた弓の弦が切れてあたったのだろう。
頬には血が滲んでいた。

俺はタニアを引っ張った。

「駄目だ!絶対にここで止める!
今は昼だ!村では火を使っている家が多い。
魔物が行けば大変なことになる!
わかるだろう?
タニア、予備の弓と矢を貸せ!
お前は待機室に行け!
武器が置いてあるだろう?取ってこい!
なんでもいい!持って来てくれ!」

後ろに向かって走り出したタニアを見送って、横のカールに声をかける。

「―――カール!斧は?!なければ剣を貸す!」

「いい!斧は刃がもうボロボロで使えないが剣はある!
くそう……なんだよ。まとまって来ることないだろう!」

カールは剣を抜き構えた。

俺も弓を構えた。


―――ここで止めるんだ。

ここを越えられれば村がある。
そこにはデボラ婆さんから受け継いだ家がある。

―――来るなよ。

また俺から奪うのか?
両親を。生まれた家を、村を奪っただけじゃ足りないのかよ。

降り積もっていた一面の白銀を泥に変えて魔物たちは進んできた。
それが無性に許せなかった。

どうして来るんだよ。
お前らの世界はあの森だろうが。

一年の四分の一。
雪の降る季節にだけ現れる。

つまり一年の四分の三は、あの森の中で生きていられるんだ。
なら、こっちに出てこなくても生きていられるんじゃないのか?

何故、雪の季節にだけ出てきて人を襲うんだ?

来るなよ。

壊させるものか。
村を。家を。

来るなよ。

襲わせるものか。
家畜を。
そして人を―――

地は続いている。

この先には他の地があって
そして……王宮がある。

王宮にはあいつがいる。

行かせるものか。
あいつに指一本触れさせるものか。


―――あいつは。俺が、守るんだ。


魔物に向かって射れるだけ弓を射た。

矢がなくなったら槍を
槍が使えなくなったら剣を。
そして剣が使えなくなったらタニアが取って来てくれた槍を構えた。

けれど
それでもまだ魔物たちは動いていた。
何十本もの矢や槍が刺さり、そこら中を斬られているというのに。

そのうちの一匹が、何かに気づいたように横に動き出したのが見えた。

村を目指す気だとわかった。
砦の上にいる俺たちは他の魔物に任せて、村へ―――。


「行かせるか!」

咄嗟に俺はその魔物を追おうと飛び出した。
気づいた時には遅かった。

目の前にいた魔物にあっけなく弾き飛ばされ、
俺は砦の壁にぶつかり背中から落ちた。

「―――――リアン!!」

俺を呼ぶタニアの叫び声を聞いた。

そして

空を何かが飛んでいくのを見た。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

欲しいものが手に入らないお話

奏穏朔良
恋愛
いつだって私が欲しいと望むものは手に入らなかった。

【完結】さようなら、私の初恋

蛇姫
恋愛
天真爛漫で純粋無垢な彼女を愛していると云った貴方 どうか安らかに 【読んでくださって誠に有難うございます】

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、 幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。 父に褒められたことは一度もなく、 婚約者には「君に愛情などない」と言われ、 社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。 ——ある夜。 唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。 心が折れかけていたその時、 父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが 淡々と告げた。 「エルナ様、家を出ましょう。  あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」 突然の“駆け落ち”に見える提案。 だがその実態は—— 『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。 期間は一年、互いに干渉しないこと』 はずだった。 しかし共に暮らし始めてすぐ、 レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。 「……触れていいですか」 「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」 「あなたを愛さないなど、できるはずがない」 彼の優しさは偽りか、それとも——。 一年後、契約の終わりが迫る頃、 エルナの前に姿を見せたのは かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。 「戻ってきてくれ。  本当に愛していたのは……君だ」 愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...