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一度目
01 命令
この西の大国の国王様と、北の大国の王女様が結婚しました。
大国同士の政略結婚です。
それでも、王妃となった北の大国の王女様は、国王様を大好きになりました。
国王様は再婚で、側妃も、すでに王子一人、王女三人のお子様方もいる方でしたが、西の大国の民特有の赤い髪と瞳を持つ、それは魅力的な方だったからです。
王妃様は国王様の子を望みました。
愛しい国王様の子が欲しいと思うのは当然ですが、側妃も、すでにお子様方もある国王様に自分を見てもらうためでもあったのでしょう。
早く。早く子を、と思われていたようです。
でもそう簡単に、思い通りにはいかないものです。
王妃様に子はなかなか授かりませんでした。
来る日も来る日も、王妃様は子を望みました。
子が欲しい。
国王様に似た、赤い髪と瞳を持った子どもが。
どのくらい、そう望んだからでしょう。
王妃様のお腹はゆっくりと、大きくなっていきました。
―――まるで本当に子がいるみたいに。
子はいないのだと納得すれば治る症状だそうですが、王妃様は納得しませんでした。
言えば取り乱してしまうばかりです。
王妃様は安静が必要だと静養地に移されました。
国王様が、王妃様の状態を周りに気づかれないようにと命じられたので、お世話は私と医師たちでしました。
それからも症状は改善することなく、王妃様のお腹はどんどん大きくなって。
やがてなんと、出産の日を迎えたのです。
「お腹が空っぽだったとわかれば、王妃様は正気を取り戻されるでしょう」
医師たちが言いました。
けれど。
王妃様は正気を取り戻すどころか、気が狂ったように赤子を探しました。
医師たちが、私が、どれだけ本当のことを言っても信じません。
ただひたすらに赤子の姿を求めて泣き叫びます。
普通ならもう諦め、王妃様を閉じ込めて終わり―――なのかもしれませんが。
国王様は、王妃様に情をかけられました。
簡単に見捨てられなかったのでしょうか。
王妃様は北の大国の王女様でもありますからね。
王妃様に赤子を与えました。
そのへんの孤児院から適当に連れてきた赤子です。
国王様から赤い髪と瞳を持った赤子を与えられた王妃様は、ようやく落ち着きを取り戻しました。
全てを知る医師たちと。
そして赤子のいた孤児院の者たち全員の命と引き換えに。
◆◇◆◇◆◇◆
「そのうち王妃様が事実に気づいて、この茶番も終わりだと思っていたのですけどねえ」
語り終え大きなため息を吐いたのは、元お母様の侍女で、今は私の唯一の侍女のデラ。
暇なのだ。
だって仕事は私の監視なのだから。
だからもう何十回。いいえ。何百回と同じ話を私に聞かせている。
小さい頃なら更にこう続いた。
わかりましたか?
空っぽの腹から生まれた貴女は部屋から出てはいけないんですよ。
暴れたり大声を出したり、我が儘を言うなら食事を抜きます。
もし勝手に部屋を抜け出したり、誰かと話したら許しませんよ?
貴女がそんなことをすれば、私が殺されるのですから。
―――それにねえ。貴女と会い話した者も。
そして貴女も、もしかしたら王妃様だって無事では済まないかもしれませんよ?
わかるでしょう?
そんなこと言われる王女様はいないだろう。
でも私は言われていた。
王妃様が――お母様が、私を産んでいない事実に気づいて私に対する愛情を失ったなら、すぐに処分される偽物の王女だったから。
私の命は(多分デラの命も)お母様が、毎日部屋にやってくるから。
国王様――お父様が捨て置いてくれたから、繋がっていたのだ。
私はいつ消されてもおかしくない人間だった。
―――でも、それが変わった。
お母様が空っぽのお腹から私を産んで18年が経った。
国王様――お父様は捨て置いていた私たちの処遇を決めた。
年頃になり、多少なりとも利用価値のできた私を生かし。
18年経ってもまだ事実に気づいていないお母様を……見限ることにされたのだ。
私は目を閉じ、お父様の言った言葉を思い出していた。
小国の貴族がちょろちょろと自国の国王の正妃にできそうな娘を探していたから、お前をやることにした。
お前はこの西の大国の第四王女として、小国の国王に嫁ぎ王妃となれ。
数日後に出発しろ。
この国の王女として恥ずかしくない振る舞いをしろよ。
ぼろが出ないように数人の護衛と侍女をつけてやろう。
もちろんデラもだ。
あとは――お前が喜ぶ護衛も一緒に行かせてやろう。
嬉しいだろう?
よく心に刻んでおけ。
お前が守れば助かり、守らなければ消える。
――― お前が守れる唯一を。守りきれよ ―――
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