9 / 17
一度目
08 落ちゆく
しおりを挟む側妃ロゼ・フローラ様は私の子――第一王子を疎ましく思っているようだと、国王陛下に訴えた。
第一王子を見て笑ったロゼ・フローラ様の目は憎悪に満ちていて。
まるで殺してやると言っているようだった、と。
「ロゼが?はは……何を馬鹿なことを。君の気のせいだ。
ロゼはそんな女性ではないよ」
必死に訴えたつもりだったが、国王陛下には全く取り合ってもらえなかった。
悔しかったが仕方がない。
ならば、と大臣ダールに「側妃に――ロゼ・フローラ様に第一王子を殺されるかもしれません」と相談した。
思っていた通り。
ダールは「なんと!心配なさいますな。すぐに私から国王陛下に訴えます!」と、恭しく言ってニヤリと口の端を上げた。
ドリスから聞いていたのだ。
「ダールは自分が縁を結んだ正妃カタリナ様の子を次期国王にして権力を握りたい。
その為には側妃ロゼ・フローラ様に子を産んでもらっては困るのです。
だからすぐに動いてくれますよ」と。
本当に、それからすぐだった。
ロゼ・フローラ様が気鬱と診断され、別棟に移されたのは。
静養のため別棟には誰も入れないという徹底ぶりだった。
ロゼ・フローラ様の父カーステン侯爵さえも。
国王陛下も別棟へは行かれなかった。
ダールが「元、西の大国の王女カタリナ様の機嫌を損ねる気ですか?」と言ったせいか。
私が「ロゼ・フローラ様は、本当は第一王子より国王陛下を憎んでいるかもしれませんね。
国王陛下のことを私――他の女との間に子をもうけた裏切り者、と思っていらっしゃるのかも……」と囁いたからか。
それとも、他に思うところがあったのか。
それはわからないが……良かった。
とにかく、私は必死だった。
ロゼ・フローラ様に《第一王子は本当に国王陛下の子でしょうか》なんて誰かに進言されるわけにはいかない。
ロゼ・フローラ様にはダールの手の者に監視された別棟で、政務のみしていてもらわなければ。
国王陛下も誰も彼も、ロゼ・フローラ様に会わせはしない。
ごめんなさい、と。心の中で詫びた。
ロゼ・フローラ様は、私を許せないでしょうね。
でもこうするしかないの。
セオを――私の唯一を守るためには……。
ロゼ・フローラ様さえ閉じ込めておけばそれで、何年経っても大丈夫と安心していたわけではなかった。
だけど、まさか二年も経たないうちに綻びが出るとは思っていなかった。
成長し、赤子から幼児になり、歩くようになり走るようになり。話すようになった第一王子のその容姿は――もはや誰の目にも、国王陛下に似たところがひとつもないとわかるようになっていた。
だからといって、第一王子を誰にも会わせず、閉じ込めておくわけにもいかない。
私は素知らぬ顔をして普通に過ごした。
第一王子に向けられる、この国の人々の目が疑念を持ったものだと感じても、私は気づかぬふりをした。
それが国王陛下の目でも。ダールの目でも。
私は気づかぬふりをした。
外交を命じ、休む間も与えず使者として各国を飛び回らせていたロゼ・フローラ様の父カーステン侯爵からは、それでも娘に会わせて欲しいと要望が届き続けた。
別棟のロゼ・フローラ様からも厄介な手紙が国王陛下に届いた。
『離縁を求めます』と。何度も。
国王陛下はすぐに手紙を破り捨てた。
「絶対に離縁はしない」と言い放ち、そう返事を書いていた。
だが、とうとう、どうしようもないことが起きた。
他国の賓客や騎士まで招いて行われた大規模な騎馬槍試合で。
勝者となったカーステン侯爵の騎士が、褒美にロゼ・フローラ様を望んだのだ。
「側妃ロゼ・フローラ様を我が妻にいただきたい」
大規模な騎馬槍試合の、勝者の申し込みだった。
勝者となった騎士が褒美として望んだのは、地位でもなく、名誉でもなく、ただ一人の女性。
観客も参加した騎士たちも、それはもう大興奮だった。
観客の中にも参加した騎士の中にも他国の。それも地位のある者が多くいた。
国王陛下は否とは言えなかった。
諾と言うしか、なかったのだ―――――。
78
あなたにおすすめの小説
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます
ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ!
そんな私に好都合な相手が。
女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。
【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵子女。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる