私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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01 暴言で終わった結婚式

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厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。

ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは―――
信じられないという顔をして言った。

「誰だ、お前は」

そして次に花嫁を指差し、大声で叫んだのだった。


「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!
お前ではない!」


教会中に波のように広がるざわめき。
祭壇の前で、どうして良いのかわからず立ちつくす神父。

慌てて飛んできた花嫁の父に向かって
花婿マティアスは怒鳴った。


「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」


当然のことだが……結婚式はそこで中止となった。


―――そして数時間後。


「すまなかった」
と、自分の屋敷の執務室でマティアスは執事と二人深々と頭を下げていた。

相手は花嫁スカーレット。


……つまりはこうだ。


一年ほど前、マティアスは両親からそろそろ身を固めろと言われた。

二男だが、両親が持っている爵位のひとつを受け継ぐことになるマティアス。
誰と結婚しても身分は貴族だ。
本来なら両親が婚約者を選ぶ。

だが自分たちが恋愛結婚だった両親はマティアスに婚約者をつけなかった。
結婚相手はマティアスが自分で選べば良い。
そういう方針だったのだ。

マティアスは自分で結婚相手を決めることにした。
だが……想う相手がいるわけではなかった。

そこでマティアスは、まず自分が結婚相手に望むことを考えていった。

爵位はどうでも良い。
歳も自分と釣り合いが取れていれば良い。
あまり派手でなく……いや。
むしろ社交より領地経営が好きだと助かる。


そして白羽の矢を立てたのが、スカーレットだった。


爵位は同じ。
歳は三歳下。
社交には滅多に顔を出さない。
その理由は父親を支え、領地経営をしているからだという。

王都にいてもマティアスは好んで社交に顔を出す方ではなかったし、
スカーレットは領地にいることが多いらしく顔を合わせたことはなかった。
彼女は人に聞いても良く知らないと言われるような令嬢らしからぬ令嬢だった。

それでも自分が結婚相手に望む条件にぴったりと合うスカーレットという女性に運命を感じて、マティアスは結婚を申し込んだ。

そして……色良い返事をもらったのだ。


しかし、そこからはうまくいかなかった。


作物の病気が流行り、あっという間に国中に蔓延した。
そのままではどこの領地も不作となり、領民が飢えるのは明らかだった。

マティアスもスカーレットも互いの領地に赴き、何とかしようと必死で。
会うことは叶わず、何度か手紙のやり取りをした程度で結婚式の日を迎えてしまったのである。


―――いや。

実は、マティアスは結婚式前に一度、王都のスカーレットの屋敷を訪ねていた。
たまたま時間が空いたので、約束はしていなかったが花束を持って会いに行ったのだ。
式の前に一度で良いからスカーレットに会っておきたいと思ってのことだった。


門番に取り次ぎを頼んだらやってきたその人を見て、
マティアスは息を呑んでいた。


茶色の髪は思っていたよりはるかに明るく、
緑色の瞳は若草のように鮮やかな萌黄色だった。

「はじめまして。マティアス様」

そう言った声は鈴の音のように愛らしく
十人が見たら十人が美しいというであろう花のような女性で―――

マティアスはその後、彼女とどんな会話をして別れたのかも覚えていない。
それほどのぼせ上がっていた。

天にも昇る心地だった。

初めてスカーレットに会えた。
スカーレットがこれほど美しい女性だったとは。

世に言われるように釣書の肖像画などあてにはならないものだ。
まるで別人ではないか。


実はその通り。
彼女は本当に別人だった。


マティアスがスカーレットだと思い込んだその女性。
実はスカーレットの妹――ステイシーだったのだ。

マティアスが花束を持って屋敷を訪れたその日、
スカーレットは外出していて留守だった。
おまけに両親も留守だった。

そこで対応に出たのがスカーレットの妹――ステイシー。

姉の婚約者とはいえ、未婚の身で家族が留守の屋敷に男性を招き入れるわけにもいかず、彼女は屋敷の門でマティアスと話をした。
当然、自己紹介をし、姉と両親の不在を告げ詫び、姉の代わりに花束を受け取ったのだが……。

のぼせ上がっていたマティアスには何も聞こえてはいなかったのだ。


―――と、いう何ともお粗末な理由で


結婚式は中止となり。
自分が暴言を吐いた花嫁が間違いなくスカーレット本人である、
とわかったマティアスは頭を下げているのであった。


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