私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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02 宣言

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「すまなかった」


マティアスと、そして執事に深々と頭を下げられたスカーレットは言った。

「お話は以上ですか?」と。

「――は?」

謝罪の最中だというのにマティアスは思わず変な声を出し顔を上げてしまった。

そんなマティアスを見ることなく、スカーレットは淡々と言葉を続けた。

「お話が以上なら失礼します」

くるりと向きを変えたスカーレット。
マティアスは慌ててもう一度言った。

「待ってくれ、私はすまなかったと――」

「――お話が以上なら。下がらせていただきますわ」

「―――――」

スカーレットは背中を向けたまま答えた。

マティアスは唇をかんだ。

スカーレットはマティアスの謝罪を受け入れる気はないのだ、と
子どもでもわかるやり取りだった。

それも仕方がない。
自分が悪いのだ。

スカーレットを別人だと勘違いして
結婚式という、花嫁にとってこれ以上ないほど幸せなはずの場所で
しかも大勢の参列者の前で彼女に暴言を吐いてしまったのだから。

謝罪しても、スカーレットがすぐに受け入れてくれるはずがない。
それだけ自分はスカーレットに酷いことをしたのだ。

それより今は、スカーレットがこうして屋敷に来てくれた。
それだけで感謝するべきだ。


マティアスはそう思い直し、ひとつゆっくりと深呼吸をした。


今は許してもらえなくても仕方がない。
謝罪し続けよう。
スカーレットが許してくれるまで、何年でも。
心の中でそう誓った。


実は
二人は夫婦になった。

二人は結婚式の直前に神父様の前で《婚姻届》にサインしていたのだ。
そして式が始まると同時に、早々に《婚姻届》は然るべき機関に受理されていた。

そのため、マティアスとスカーレットは《夫婦》。
教会にも国にも認められた正式な夫婦なのだ。


結婚式を台無しにしたマティアスの暴言があっても
スカーレットの家族やスカーレット自身がどう思おうとも

スカーレットはもうマティアスの妻で、
スカーレットの家はここマティアスの屋敷となったのである。


マティアスは、妻となったスカーレットに努めて優しく声をかけた。

「そうだな。疲れただろう。今日はゆっくり休むと良い」

そう言うと侍女長を呼び、言った。

「彼女を部屋へ案内してくれ」

「はい。初めまして奥様。侍女長のヘレンと申します。
奥様のお部屋へご案内しますのでどうぞ、こちらへ」

侍女長のヘレンはスカーレットににっこりと挨拶をするとドアの前へ立った。
しかし

「奥様?やめてちょうだい」

スカーレットはそう言ってくすりと笑った。

「私のことはスカーレットと。よろしく侍女長のヘレンさん。
勘違いされているようだから、はっきり言わせてもらうわね。
私は《奥様》ではないわ。
しばらくこの屋敷に留まることになった居候よ。
そう扱ってくださいね」

「な」

「そういうわけですから。客間に案内を頼みます」

「きゃ……客間って」

「駄目なら使用人部屋でいいわ。私、どこでも寝られるので」

「だ……旦那様」

堪らずマティアスに助けを求めた侍女長のヘレン。
だが口を開けたままになったマティアスに代わり、執事ネイトが言った。

「奥……いえ、スカーレット様。
旦那様の暴言が許せないのはわかりますが、それはあんまりです。
旦那様はこの日を待ちわびて、奥様のお部屋をそれは素敵に整えられました。
ですのでどうか、そちらへ――」

「――だったら。そのお部屋は次の奥様のために取っておくと良いわ」

「……は?」

「この国では離婚が認められるのは婚姻後、最低一年が経ってから。
私はその日までこの屋敷に留まる、書類の上だけの妻です。
その奥様のお部屋とやらを使う気は全くありませんから」

マティアスと執事ネイトと侍女長は
スカーレットの怒りがどれほどのものか
はっきりと知った。


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