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03 拒絶
この国では婚姻後、一年経てば離婚できることが法で認められている。
生涯で何度結婚し、何度離婚しようが個人の自由だ。
しかし、それは平民の話。
離婚が法で認められていても、
貴族や王族といった地位のある者が離婚することはほぼない。
領地や国のために婚姻を結ぶ――いわば政略結婚が大半を占めているからだ。
地位があるだけに、背負っているものは大きい。
おいそれと離婚などできるはずがない。
どれほど結婚相手と気が合わずとも我慢し、子を成し。
やがて子が跡継ぎとして一人前になった頃に、ようやく恋愛を楽しむ。
それぞれ、愛人を作るのだ。
そうまでしても、一度結婚した相手とは決して別れない。
それがこの国の貴族の普通。
そんな中で離婚などすれば、どんな目で見られるのか。
まず異端者扱いだ。
貴族としての信用も失う。
こういう場合、男より女の方が割を食う。
男性のマティアスより、女性のスカーレットの方が厳しい目を向けられるのだ。
次の縁などまず望めない。
生涯、一人侘しい生活をおくるのが目に見えている。
スカーレットも貴族の令嬢。
そんなことは百も承知だろうに、それでも《一年後の離婚》を口にした。
つまり
――貴方と夫婦でいるくらいなら侘しい生涯をおくる方がマシよ――
スカーレットはマティアスにそう言ったのだ。
そこまで嫌われた。
マティアスのショックは大きかった。
しかし自分の吐いた暴言を考えれば当然だと言える。
どう考えても悪いのは自分なのだ。
それでも……マティアスは諦めたくなかった。
結婚式の参列者を一人一人訪ねて自分の愚行を詫び、
悪いのは全て自分であってスカーレット一家には全く非がないことを語り。
そして。
スカーレットとスカーレットの家族には毎日誠心誠意、謝罪することを決めた。
特にスカーレットだ。
どんなに口汚く罵られようが、構わない。
気の済むまで殴ってくれても構わない。
毎日、時間が許す限り謝り続けよう。
同じ屋敷に暮らしているのだから、できるはずだ。
そう決めた……のだが―――
スカーレットには、そんなマティアスの気持ちなど全く届かなかった。
確かにスカーレットはマティアスの屋敷で暮らしては、いる。
宣言した通り客間を使い、
実家から連れてきた侍女を一人、側に置いて屋敷にいるにはいる。
だがスカーレットの一日は……
朝早く
実家からスカーレット付きの執事だという青年が馬車でやって来て、スカーレットは侍女と出かけていく。
朝食は食べない。
戻るのは夜、暗くなってから。
夕食も食べないどころか、屋敷の浴室も使わない。
洗濯物はシーツなど客間に設置されている物のみ。
洋服など私物を出したことがない。
全て実家で済ませているのだ。
そう。
屋敷には、眠りに戻るだけ。
そして朝、起きればまた出かけ夜まで戻らない。
その生活にはマティアスが入り込む時間はない。
屋敷の者も誰一人としてスカーレットと親交を深める余地がない。
マティアスと屋敷の者は思い知った。
一年後。
スカーレットは本気で離婚する気なのだ。
マティアスとの関係を改善する気など全くないのだ、と。
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