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18 誰一人
しおりを挟む執務室で、
マティアスは身じろぎもせず名簿を見ていた。
「旦那様?どうかなさいましたか?」
様子が変だと気づいたネイトが声をかけたが、マティアスは名簿から目を離さずにいた。
それはマティアスの家の、親戚の名簿だ。
執事のネイトが、スカーレットの使っている客間から持ってきた名簿を写したもの。
いや、実はこちらが原本だ。
スカーレットに渡してあった方が複写本。
その複写本に、スカーレットが添え書きや小さな印をつけていた。
今マティアスが見ているのは、ネイトがそれらの添え書きや小さな印を全く同じように書き加えた原本だった。
マティアスは首を捻った。
「ネイト。この小さな印につけ間違いはないか?」
「もちろんです。旦那様は私の記憶力をお疑いですか?」
ネイトはきっぱりと言い切った。
ネイトは記憶力が良い。
それを買われて若いが、マティアスの執事に抜擢されたのだ。
「そうだよな……」
と呟いて。
マティアスは腕を組んだ。
家族の一覧の中に、ところどころ付いている小さな印。
それは二男、三男……。
継ぐ爵位を持たずこのままでは平民となるため、どこかの貴族の家に養子か、もしくは将来婿養子に入ることを望むであろう幼い男の子の名前に付いている。
だが、中にはついていない子もいる。
印がついている子とついていない子の違い。
それは実家の父親の爵位と領地を継いでくれる男の子を望むスカーレットが
希望に合う男の子には印をつけ、合わない子には印をつけなかったからだ。
スカーレットが男の子たちを念入りに調べた証だ。
マティアスも、そしてネイトも、そう思っていた。
しかし。
―――スカーレットが望むなら、印のついている子の中から養子を迎えよう。
そう思い、その子たちを調べようとして、マティアスは気がついた。
大人ではない。少年でもない。
まだ幼い子どもだ。中には赤ん坊もいる。
そんな子どもたちを養子に向くか向かないか、判断などできない。
スカーレットが養子に向く子か否か。
判断したのは家柄か、親の評判か――そんなところだろうと思ったのだが。
どう見ても、そうではなかった。
考えれば考えるほどわからなかった。
スカーレットはどこで判断した?
大切に思う領地を、領民を任せる子だ。
いい加減に決めようとするはずがない。
何かあるはずだ。
本当に領地を、領民を、任せても良いと思う子ならば。
そう、たとえば私なら。
自分の領地を任せる子は―――
「―――――」
そこまで考えて。
マティアスは思い至った。
スカーレットがつけた印の意味などわからない。
だが
いないのだ。
任せたい子など。
大切に思う領地を、領民を任せたい者など
誰一人として、いないのだ。
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