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2 苦い
しおりを挟む僕の申し出どおり、僕とアリシアとの婚約はなくなった。
それも、僕有責での《婚約破棄》ではなく円満な《婚約解消》という形で。
……だが僕はまるで喜べなかった。
アリシアは大人しく、言葉の少ない女性だった。
だから激昂する姿は想像できなかった。
けれど怒りはするだろう。
酷いと言って泣くかもしれない。
そう想像していた。
そうでなくとも驚くだろうと思っていた。
……少しは惜しんでくれると思っていた。
なのに
彼女はあっさりと婚約解消を受け入れた。
自分にとって僕は、ただの親の決めた政略結婚の相手だ。
なんとも思わないと言って。
唇を噛んだ。
婚約して五年。
本当なら来年結婚式を挙げ、夫婦となっていたはずだったのだ。
確かに、互いの気持ちで結ばれたものではない。
親に決められた政略結婚の相手だ。
だが五年間。
僕たちは婚約していた。
週に一度のお茶会には必ず行った。華やかな花束を持って。
手紙のやり取りもした。
他にも。
誕生日には贈り物をしたし、流行りの劇を見に行った。
舞踏会に参加する時はエスコートも欠かさなかった。
僕たちは共にいた。
異性の中では誰よりも親しくしてきた。
アリシアの言ったとおり、それは婚約者の義務と言われれば、そうだ。
それでも
将来は夫婦となって一生一緒にいるつもりだった女性なのだ。
僕はアリシアにきちんと礼を尽くしてきた。
……恋人と出会い、恋に落ちてから今日までの半年でさえも。
僕はアリシアを邪険に扱ったことはない。
婚約を破棄すると決める時も彼女の今後を思い、散々悩んだほどなのだ。
―――勝手だと、わかってはいる。
僕が一方的に婚約破棄を申し出たのだ。
アリシアにどんな態度を取られても文句など言える立場ではない。
わかっている。
わかってはいるが。
僕の名前も覚えていないと言って笑った。
彼女のあの態度は…………。
―――彼女は……あんな女性だったのか。
これまでの僕の五年間を、全て否定された気分だった。
しかし、それも仕方がないことなのかもしれない。
―――彼女は愛のない両親を見て育った為に、人を愛し、愛されることを諦めた可哀想な女性なのだ。
僕はそう思うことで自分を納得させた。
もう元、婚約者だ。
アリシアのことは忘れよう。
これからは恋人との素晴らしい未来のことだけを考えよう。
そう思った。
だが
僕の愛しい恋人は消えた。
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