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第一章
16 竜と人
しおりを挟む目を開けて見えたのは白い髪を横でひとつに束ねた老婆の顔だった。
「気がついたかい?」
「……お婆さん?……ここは……」
「王宮――お前さんの部屋だよ」
「王宮……」
ああ、そうだわ。
彼と国王陛下のところへ行って――そのあと意識を失って……。
ゆっくりとベッドの上で身体を起こした。
「大丈夫かい?」
「はい。でも……どうしてお婆さんが王宮に?」
「《結界》が使えるからね。私はどこでも出入り自由なんだよ。
……それにあの王子が覚えていてくれたからね。こうしてお前さんといられる」
「覚えて?」
「――それより。どうやらまだ難しかったみたいだね」
「―――」
握りしめた手を見る。
「一緒にいたかった……」
手に涙が落ちた。
「何度生まれ変わってもずっと望んでいました。
彼に――《番》に愛されたいと。
その願いを叶えられるのはこれが最後。
今世が――《私》が彼と一緒にいられる最後。
《次》はない。
だから一緒にいようと思った。
最初で最後なのだから一緒にいたいと思った。
悔いを残したくなかったから。でも―――」
「……あの王子と一緒にいないと悔いが残るのかい?」
「ずっと一緒にいたくてもできなかった《番》なんです。当然でしょう?」
「《番だから》当然かい?それではまるで呪いのようだね」
「え?」
「《番》は竜のものだ。
だから《竜だった頃の》お前さんがあの王子と一緒にいたかったのはわかる。
けれど今の、何度も人に生まれ変わったことで《竜》より《人》に近い。
《竜気》も残りわずかしかないお前さんに、どこまで当てはまることだろうね」
「……私には……当てはまらないと?」
「お前さんは一度は王子を拒絶した。《番》から離れようとした。
それは《竜》にできることじゃあないんだよ」
「―――――」
「《竜の魂》を持ってはいても――お前さんの心はもう人なんだよ」
「……人?」
「ああ」
言われた言葉が身に染みていく。
私の心はもう……人
もう《竜》じゃない
もう《竜》じゃあ……ない……
すとんと心に落ちた気がした。
お婆さんは小さく息を吐いた。
「さて……で?どうするね?このまま、あの王子といるかい?
お前さんがあの王子を愛しているというなら……まあ止めやしないが」
「……愛してる?」
ずっと
《番》なのだから私が彼を愛しているのは当然で
だから彼に愛されたいと願っていた。
今世も
《番》なのだから一緒にいたいと思っていた。
けれど今
返事が出来ないでいた。
私は……彼を愛しているのだろうか。
それ以前に
《番》だという以外に
私は、彼の、何を知っているのだろう―――――
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