私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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第一章

17 果て

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お婆さんと別れて私は王子――彼のもとへ向かう。

遠い昔――彼が竜王だった頃。
「貴女は竜王の《番》だ」と言われた時の驚きは忘れない。

少し前から全身で《何か》を感じていた。
それが《番》が現れたからだとわかってからは喜びに震えていた。

けれど

―――竜王の《番》?私が?

一瞬で身体が強張った。

私を迎えに来たという彼の臣下に返事が出来なかった。
私はただの名もなき《竜》。大丈夫なのかしら、と不安に思った。

その不安は正しかった。

高貴な方だと恐れおののきながら、それでも感じた愛しい《番》の気配。
やっと会えた時の喜び。

……でも。
私をひとめ見た彼の顔で、私の世界は真っ暗に変わった。

やがて訪れた絶望―――

――「これほどつまらない女だとは思わなかった」――

と言われ突き放され

それからは

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

生まれ変わった。

何度生まれ変わっても彼は《番》を――私を見つけ私は彼のもとへ行った。

そこからはずっと同じ。

もしかしたら今世は愛してもらえるのではないかと淡い期待を抱いて会い

会っては拒絶され失望し

それでも

私に教養がないからかと教育を受けた。

私に社交性がないからかと話術を学んだ。

私に気品がないからかと礼儀作法を習い。

私の性格が合わないのかと自分を変えようと努力し。

私の評判が良くないからかと常に他人の目を気にし。


《番》なのに

彼に愛されるどころか見てももらえないのは私に原因があるからだと

私が彼に相応しい《番》になればきっと彼は愛してくれるだろうと

どの生でも

私は彼――《番》に愛されたいと望んだ。
彼と愛し愛される《番》となることを夢みた。


それももう終わり。

私たちは、一緒にはいられないとわかってしまったのだから―――



「王子!どうされたのですか!貴方らしくもない」

聞こえてきたのは臣下の声。
王子――彼は私が《動いた》のを察してやってきたのだろう。

声が近づいてくる。

「執務室においでください!お願いですから!」

彼を想う悲痛な臣下の声。

「あのご令嬢はお部屋におられます。ですから王子――」

臣下は私を見て沈黙した。睨むようにこちらを見る。

王子――彼はそんな臣下のことなど気にもとめず、私の方へ笑顔で歩き出した。

私は――彼に向けお辞儀をし、言った。


「お別れを言いにきました」


「……何を言っている」

すぐ前で、彼の震えた声が聞こえる。
彼は私の肩を掴むと叫んだ。

「だめだ!どこへ行くというのだ!君は私の《番》なのに!」


―――  私の《番》 ―――

前世までであればその言葉がどれほど嬉しかっただろう―――


けれど……今は

私がいると我を忘れてしまう《番》に――彼に私ができることはただひとつ。


――― 突き放すことだ ―――


「――ならば。食べますか、私を」

「―――――」

彼の顔が大きく歪む。
胸がえぐられるように痛い。

それでも私は言う。
想いを込めて。


「私の幸せは貴方の側にはない」


忘れて
私を
《番》を
《竜》だったことを
そして人となって幸せに

どうか、幸せに―――――


私は駆けだした。


一目散に王城の出口へと走った。

途中、何人もの人にあったが誰一人私を止めなかった。

王城を出る手前の広場に着く。
ここを過ぎれば王城を出る門がある。

その時

追いかけてきたのだろう
背後で彼が「行くな」と叫んだ

王家主催の宴。
断りきれなかったダンスの後。

「君を私の妃にしたいんだ」

少しはにかんで私に言った彼。
今までの《彼》とは違う彼。

《竜》であった時から今までで
あの日が初めて話ができた日だった。

今世、初めての出会いだった。

私の心がもう人だとしても
《竜気》はある。

忘れられない。
忘れるばずがない。

私の《番》
私の唯一

とめどなく溢れる涙

それでも私は――首を横に振った

絶望したのは
嘆いたのは
《不幸》を呼んだのは

私と彼、どちらなのだろう―――


「放て」


国王陛下の声。

見上げれば――上の階には国王陛下と兵士が何人も並んでいるのが見えた。
全員が弓をひいている。

彼が悲鳴をあげた。

放たれた矢が降ってくる。

私は目を瞑った。

けれど

どれだけ待っても痛みはやってこなかった。

恐る恐る目を開ければ


目の前には竜。

大きな、竜。


その目は―――紫色だった。


「……クルス?」


透き通るように綺麗な紫色の目が揺れる。

竜の大きな身体がぐらりと揺れた。

その背には大量の矢。


「―――クルスっ!!」


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