私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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第二章

03 東の国からの使者 ※サヤside

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「んー。とりあえず。婆さんとこに案内してくれない?」


どくん、と。
はっきり胸の鼓動が聞こえた気がした。

黒髪、黒い服の男性が急に恐ろしくなり思わず後ずさった。

離れたからだろうか。
私の前にいたクルスが振り向き「サヤ?」と私を訝しげに呼んだ。

身体が震えていた。
胸の鼓動は大きく耳鳴りのように頭に響く。


――「あー、いたいた」――


他国の人に見える黒髪、黒い服の男性は
私を見つけてそう言った。

そして
お婆さんに会いたいと言う。

私。
お婆さん。

この男性が《ここに来た》理由はひとつしかない。


《彼》だ。


私の《竜気》で狂わないために
お婆さんが織った《私のストール》を持って旅に出た、私の《番》。

この男性は《彼》を知っている―――――


きっと《人》ではない。
《彼》を知っているこの男性は何故……ここに来たの?

まさか……



「……《彼》に……何かあった……の?」



知らず声になった。

クルスが驚いたように私を見た。

それでも私は
クルスの向こうにいる男性から目が離せなかった。


黒髪、黒い服の男性の瞳が光った。
黄金色の瞳が細くなる。


「……へえ。君、ヴィントを知っているんだ」

「……ヴィント……?」

「俺があいつに付けた名前。あいつ、何を聞いても何も言わないからさ」

「《彼》に何をしたの?!」


男性の返事を待つ。

どくん、どくんと鼓動が早くなる。
手を強く握りしめても身体の震えが止まらない。

そんな私をじっと見て

「……まいったなあ……」

と、黒髪、黒い服の男性は苦笑した。
そして両手を広げて見せた。


「サヤちゃんだっけ。落ち着いてくれない?
心配いらない。ヴィントは元気だ。無傷だよ。
俺は話をしただけ。あいつに危害を加えたりしていないよ」

「……本当に?」

「本当だ。誓うよ。ああ、そういや挨拶もまだだったね。
俺はロウ。
ここより東の国から来たんだ。
多分、お察しの通り《人》じゃあないけどね。
そんなに警戒しなくても、何もしないよ。
ちょっと婆さんと話がしたいだけなんだ。……ヴィントのことでね。
会わせてくれないかな。
知っているんだろう?婆さんの居場所」

私が何か言う前にクルスが「断る」と言った。

「断る。お前は妙な匂いがする」

ロウと名乗った男性はまたもわざとらしく目を見開いた。

「へえ、俺の匂いがわかるんだ。《竜気なし》なのに?」

「《竜気》が分からずとも勘は働く」

「ああ、そっちかー」

黒髪、黒い服の男性――ロウは面白そうに笑った。

「んー。でも、困ったなあ。どうしても婆さんに会いたいんだけど。
《竜気なし》の君を相手にするのはなあ。
さすが婆さん。恐ろしい護衛を持ってるね」


―――恐ろしい護衛?クルスが?


そう聞きたかったけれど、できなかった。


―――『クルス。その男を連れて戻っておいで』―――


お婆さんの声だった。

すぐ側で聞こえた気がして驚いて見まわしたがお婆さんは、いない。
空耳かと思ったが黒髪、黒い服の――ロウと名乗った男性が言った。

「ああ、良かった。今の聞いた?俺を連れて来いって」

お婆さんの声が聞こえたのは私だけではなかったようだ。

ロウはにこにこと笑っている。


クルスは……

見たこともないほど冷たい表情でロウを睨みつけてから、
それでもお婆さんの家の方へくるりと向きを変えた。


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