私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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第二章

09 不安 ※サヤside

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「クルス……」

呼んでもベッドの上のクルスは目を開けてくれない。
もう丸一日以上そうだ。

お婆さんは交代しようと言ってくれた。
けれど私はどうしてもクルスのそばを離れたくなくて、ずっと見ていた。

夜も眠らずそばにいた。
……でも。

倒れてからずっと、クルスの意識は戻らない。
苦しいのか時々、顔を歪めて身体を動かす。

お婆さんは、ひっきりなしに身体を動かしたり、痙攣をおこすよりはいいと言っていたけれど……それでも苦しむ姿を見ているのは辛い。

水を絞った布で、そっとクルスの額の汗を拭く。
そのまま頬も。

……酷く顔色が悪い。

唇を噛んで涙を堪える。
手が震える。胸が苦しい。

何もしてあげられない。
クルスはいつだって私を助けてくれたのに、私は苦しむクルスをこうして見ているだけ。

それが情けなくて、悔しい―――――


私にできるのは待つことだけだ。


昨日、倒れたクルスをベッドに運んだあと、お婆さんは言った。

「竜は丈夫だ。病気に罹ることは少ない。だから考えにくいけれど。
クルスのこの状態から察するに多分、何らかの病気だね」と。

「多分って……。お婆さんにも、わからないんですか?」

私の問いかけに、お婆さんは困ったように言った。


「《竜気》のある普通の竜ならば《わかる》。
居場所だけじゃない。
《竜気》はその竜の身体が今、どんな状態かも知らせるからね。
成熟した者なのか、未成熟の子どもなのか。
健康なのか、弱っているのか。
病気なら、病気だとわかる。
――だが、クルスには《竜気》がない。
クルスの身体が今、どんな状態にあるのかは……わからないんだよ」

「そんな……」

「医師は私と同じことを言うだろう。
竜は《竜気》に頼るところが大きいんだ。
……薬はあるが。
だが、どんな状態にあるのかわからないクルスには飲ませられない。
どの薬が効くのか、わからないんだ。
一か八かで与えれば、逆に症状を悪化させてしまう可能性がある」

「クルスには、何も治療はしてあげられないということですか」

「……今はね。でも幸い、ロウがいた」

「ロウ?」

「水の竜の医師は、他の竜の医師とはちょっと違う。
《竜気》だけでなく、体液からも病状を診る。
クルスがどんな状態なのか、水の竜の医師ならわかるかもしれない」

「水の竜の……お医者様?」

「今、《呼んで》もらっている。方法はわからないが。
ロウが呼ぶと言ったのだから呼べるのだろう。
ただ、到着がいつになるかはわからない。
ロウにも数日かかるだろうというくらいしかわからないそうだ。
だから、それまでは…………」

「私が。ついています。クルスに」

「そうだね。そうしてやっておくれ」

「はい」


そして丸一日が経った。
長い、長い一日が。

ロウが呼ぶと言ったという、水の竜のお医者様はまだ来ない。

水の竜だもの。
ロウが言っていたここより東の、水の竜が住んでいる国から来るのだろう。

遠い東の国からなんて。
どのくらい時間がかかるんだろう。

それに、そのお医者様は本当に、
クルスを治してくれるのだろうか……。

―――怖い。

ぞくりとした。
真っ暗な闇にのまれていくような、そんな感覚に陥った。

もう夜は明けている。

それどころかとっくに昼も過ぎているくらいだ。
客間の小さな窓からは白い光が差し込んでいて室内は明るい。


なのに。


「クルス」

呼んでもやっぱりクルスからの返事はない。

私は跪き、ベッドの上に横たわるクルスの手を握った。



「お願い……いなくならないで」


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