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第二章
13 《番》とは ※サヤside
しおりを挟む遠い昔。
私が竜だった頃の記憶はおぼろげだ。
王宮にいたことや、山奥で育ったことだけではなく
父母のことも。
そして
私を「貴女は竜王の《番》だ」と迎えにきたクルスのこともよく覚えていない。
私がはっきりと覚えているのは私の《番》。
竜王であった《彼》のことだけ。
彼の言葉。
彼の表情。
それから《竜気》だ。
《番》の証――私の《竜気》と混ざり合う、彼の《竜気》。
《番》である私を《食べたい》という
おぞましい思いを抱いていた彼は、私を遠ざけて
会えもしなかった。
彼のおぞましい思いを知らなかった私は、
彼が私にそんな態度をとるのは私が彼に相応しくないからだと悩み、
辛い日々を送った。
それでも《番》の――彼の存在は特別で
この上なく甘くて
離れることなど考えられなくて。
どこにも行けなかった。
彼しか見えなかった―――――。
そのあと数えきれないほど転生を繰り返しても
ずっとそうだった。
人間に生まれ変わっても、心は竜だった前世までの《私》。
《私》に見えていたのは彼だけだった。
今世の。わずかに《竜気》が残るだけで心も人となった私は、
前世までの《番》――彼しか見えなかった《私》とは違う。
それでも、彼を特別だと思うところは同じだ。
今世も、《番》である彼は、私の唯一のひとだ。
彼のことを考えない日はない。
《食べたい》というおぞましいほどの思いではない。
でも今世も、やはり私の《竜気》で狂ってしまう彼。
一緒にはいられないと分かっていても、彼がそばにいないのは
心もとなく寂しくて、心を痛めることで。
彼の身に何かあったと思うだけで
私の心は騒めき居ても立っても居られなくなる。
お婆さんにはそれを《情》だと言われた。
《完全にひとつになりたい》――《食いたい》という
最強で最悪の《番》への想いに
一緒に振り回され、転生を繰り返した、
《番》という結びつきのある者への《情》で。
《愛》と似ていても異なるものだ、と。
私もそう思う。
彼への気持ちは《愛》とは違うと。
けれど…………私は、彼の存在を無視できない。
彼を愛せないことに
彼以外のひとを見てしまうことに
後ろめたいものを感じずにはいられないほどに。
だからわかる。
竜にとって《番》がどれほどの存在なのか。
《番》は唯一無二。
絶対の存在だ。
クルスは竜だもの。
たとえ《竜気》がなくても、人間の私とは違う。
私とは違う理で生きる竜なのだ。
《番》がいるのに
《番》と離れて生き
《番》以外のひと――クルスのことで涙を流す私は
竜であるクルスにとっては奇妙な、あり得ないものなのだろう。
私の感情は
クルスには、理解されないものなのだ。
けれどそれでも
私が
一緒にいたいと
触れたいと思うのは、ひとりだけ。
ひとりだけ、なのに―――――
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