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第二章
14 探索 ※お婆さん(占い師)side
しおりを挟むクルスを狙った奴は、まだ見つかっていない。
クルスが毒に倒れた日から七日が経った。
今日までロウはずっと市場を見張っていた。
クルスに直接、毒――《竜殺し》を盛った者はすぐに見つかった。
クルスとサヤが市場に行った日に、ふたりが最後に寄った店の売り子。
試飲として、ふたりに飲み物をすすめた人間の娘だった。
売り子の娘は、店の常連だったクルスに想いをよせていた。
その娘が、少し前に旅の雑貨屋の男から小さな小瓶を貰った。
何度か町に雑貨を売りに来ていた顔見知りの雑貨屋から
紐をつけたらペンダントになるくらいの、小さな小瓶を貰った。
その中には透明な液体が入っており、
雑貨屋は、それを特別な祈りを込めた水――《惚れ薬》だと娘に言った。
飲んだ者は、飲ませた者を好きになる。
意中の人がいるのなら、その人に飲ませたらいい、と。
そう言って、雑貨屋は液体の入った小瓶を売り子の娘に手渡したという。
売り子の娘は雑貨屋の話を信じたわけではなかった。
受けの良い話をつけて売り出された、単なる土産物だと思ったそうだ。
ただ小瓶が綺麗だったのと、《惚れ薬》という響きには惹かれた。
それでいつも小瓶を持ち歩いていた。
だが、お守りのように持っていただけ。
その後、何回かクルスは店を訪れていたが
売り子の娘は小瓶の中の《惚れ薬》を使う気など全くなかった。
しかし
あの日。
クルスは女性――サヤを連れてきた。
それで売り子の娘はクルスに小瓶の中の液体――《惚れ薬》を飲ませた。
客の呼び込みで振る舞う果実水の中に入れたのだ。
サヤに寄り添うクルスを見て、何かせずにはいられなかったという。
《惚れ薬》なんて話を信じていたわけではなかった。
だから雑貨屋が話していた説明など聞き流し、覚えていなかった。
そこで―――一滴だけ使った。
ロウから《クルスが体調を崩した》と聞いた売り子の娘は、真っ青になってロウにそう打ち明けたそうだ。
そして小瓶をロウに託した。
クルスが体調を崩した原因は、自分が飲ませたこの液体――《惚れ薬》のせいかもしれないと。
ロウが持ち帰った小瓶の中の液体はやはり毒――《竜殺し》だった。
ならば売り子の娘に小瓶を《惚れ薬》だと言って渡したという旅の雑貨屋の男。
奴は竜である可能性が高い。
そして何度も市場を訪れていたはずだ。
他の誰でもない。
《売り子の娘》に小瓶を渡したのだ。
売り子の娘に渡せば、彼女が《誰に》惚れ薬を飲ませるか
知っていて利用したのだろう。
竜だろう雑貨屋の男。
奴は気になりずっと見ていたはずだ。
小瓶を手渡した売り子の娘が
いつクルスに《惚れ薬》――《竜殺し》を飲ませるか。
ならクルスが《竜殺し》を飲んだあの日。
ロウが市場で《竜気》を感じた男である可能性が高い。
それで毎日、ロウにその男を探しに市場へ行ってもらっているのだが
奴は見つかっていなかった。
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