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1 くたばっちまえ
しおりを挟む―――あったまにきた!
アイラは怒りをぶつけるように地面を力強く踏み締め歩いていた。
頭にきた!
頭にきた!
頭にきた!!
心の中で呪文のように唱えながら。
アイラには婚約者がいた。
幼馴染のエイデンだ。
と、いっても気の弱い幼馴染のことを、アイラは好きでもなければ嫌いでもなかった。
でも婚約者だ。
なのに。
エイデンの家を訪ねて行ったら
見てしまったのだ。
エイデンが美女と部屋で……していたところを。
エイデンの部屋の、空いていた窓の外から。
頭が真っ白になった。
夢だと思いたかった。
逃げ出したかった。
けれど
身体の力が抜け、こともあろうにへなへなと窓の下にしゃがみ込んでしまった。
おかげで聞きたくもなかったエイデンと美女の会話を聞くことになった。
「大好きよ、エイデン」
鼻にかかった甘ったるい声は多分、美女のもの。
「僕もだよ、ナウリア」
そう言ったのは間違いなくアイラの幼馴染で婚約者のエイデン。
アイラは立ち上がれなかった。
震える両手で口を塞ぎ、なんとか声を漏らさないようにするのに必死だった。
「こんなに好きなのに。貴方はアイラと結婚するのね」
「ごめんよ、ナウリア。
父さんがアイラに結婚の申込書を出してしまって、アイラが受けたから。
断れないんだ。断ったらどんな目に遭うか」
「《魔法》を使われたらたまらないものね」
「そうなんだ。どうしようもないんだよ。
でも―――」
――でも結婚したらこっちのものだ。
君に思いっきり贅沢をさせてあげられるよ――
エイデンのその言葉を聞いた瞬間、アイラは怒りでどうにかなりそうだった。
けれど衝撃的な言葉は更に続いた。
「エイデン、いい加減にしとけよ。そろそろアイラちゃんが来るぞ」
と、ノックと共に聞こえたそれはエイデンのお父さんの声。
「そうよ、エイデン。貴方が家の外でナウリアちゃんに会って、二人の関係が噂になったら困ると思って家での逢瀬を許したけど。
アイラちゃんに見られたら結婚の話はなかったことにされてしまうわ。
それは絶対に駄目よ。わかるでしょう?」
これはエイデンのお母さんの声。
「わかってるよ。何が何でもアイラと結婚するさ」
エイデンの声。
「―――《お金と》でしょう?」
「ははは、うまいこというねナウリアちゃん」
美女――ナウリアとエイデンのお父さんの声。
―――全員くたばっちまえ!
心の中で物騒な言葉を吐いて、アイラは音を立てないようにその場を離れた。
……そして冒頭へ戻る。
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