ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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ついで姫の諦め




私の声は、私の婚約者には聞こえないらしい。

おはようございます、と言っても。
いってらっしゃいませ、と言っても。
お帰りなさいませ、と言っても。

何ひとつ返事は返ってこない。

ご両親や妹。その他の人たちとは話すのだから、耳が聞こえていないわけじゃあない。
ただ、私の声だけは。
私の言葉だけは、彼には届かない。

私たちの婚約は国同士の繋がりのため。

私の国の王女様と、この国の王太子殿下。
そして私と、婚約者。

その二組の婚約が政略のもと、結ばれた。
愛し合って結ばれたわけじゃあない。

それでも……生涯を共にする夫婦になるのだからと歩み寄ろうとしたけれど。
そんな私の行動は不要なものだったみたいだ。

婚約者にとっても。
婚約者の家族にとっても。

むしろ鬱陶しく、邪魔のよう。

「話を持ってきたのが国王陛下でなければ、誰が他国の下位貴族の娘など」

婚約者の妻となるのに相応しい教養を身につけるために、私が婚約者の家で暮らすことになったその日に、婚約者の両親は言った。

「国の習慣だか何だか知らないけれど、何が《姫》よ」

私が連れてきた侍女が私を《姫》と呼んだのを聞いて婚約者の妹が笑った。
つられたのか、聞いていた使用人たちも笑った。

私は俯くしかなかった。
確かに私は下位貴族の娘で、そして《姫》じゃあないのだから。

それからどれだけの日が過ぎただろう。

来る日も、来る日も。
私は婚約者に挨拶をし、話しかけた。
彼からの返事はなくても、話し続けた。

……けれど。

彼の耳に、私の声が届くことはついになかった。


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