花住み人

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女として生きること

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「私は女として生きる人生を、半分放棄しているの。」

俺の恋人、茉由花は口癖のようにそう言った。
彼女が男勝りの性格であるということではないし、男のような趣味を持っているわけでもない。
物理的に女を放棄しているのだ。

茉由花は身長170㎝。
細身の長身で、手足がとても長く、顔が物凄く小さかった。
背は俺の方が高いけれど、はっきり言って、俺よりよっぽど格好良い。
目は綺麗な切れ長の二重で、鼻筋はスッと通っていて高い。
肌も透き通るように白くて陶器のようだ。
そしてハスキーな声の持ち主で、落ち着きのある雰囲気だった。
だが、そんな端正な顔立ちや声と対照的に、笑うと顔がふわりと綻んで急に可愛らしい顔になるのも彼女の特徴だった。
近づきがたいオーラを発しているわけでも、気取っていいるわけでもなく、親しみやすい人だ。



彼女との「逢瀬」は、いつでも俺の家だった。
彼女の家に俺が入っていくのを見られたら、大騒ぎになってしまう。

俺の家に来る彼女は、いつでも目を疑うほど格好良い。
サングラスにグレーのロングコート、黒いブーツを身に纏い、それから大人の男が付けるような香水をつけて。
今夜も例外ではない。
インターホンに映る彼女からは、高雅な香りが漂うようだった。
彼女が俺を選んでくれたことを、奇跡のように思う。

「入っていい?」
マンションのインターホン越しに尋ねる彼女の声は、いつも小声だった。
誰かに聞かれることを恐れているように。

俺の声がエントランスに響き、住人が男性であるとバレることを避けるため、いつも返事をせずにドアだけを開けるようにしていた。
彼女のヒールの音が、近づいてくる。
足の長さゆえに大股で歩くのか、昔付き合っていた女性たちよりも、ヒールの音がすぐに近づいてくる。

俺は出迎えてやりたい気持ちをいつでも押し殺して、玄関で扉が開くのをじりじりと待つ。
ヒールの音がドアの向こうで止まり、がちゃり、とドアが開く音がした。
ムスクの香りと共に、彼女が姿を現した。
次の仕事まで時間が空くということで彼女は会いに来た。
1カ月ぶりの再会だった。

「ただいま。」

彼女のハスキーな声が、ほんの少し甘い色をしている。
俺だけが知っている声だ。
サングラスをしていても、彼女の表情がどんなものか、容易に想像できた。
目をキュッと細めて、俺の大好きな顔で笑っているのだろうと。

「うん、おかえり。」
俺も、恥ずかしいくらい甘い声だ。

茉由花がサングラスを外した。
…ほら、やっぱり予想通りの表情してる。

「おかえり。」

もう一回そう言って、茉由花を抱き寄せた。

「やだごめん、くさいかな、香水。」

茉由花の首に顔をうずめたら、少し慌てたように言われた。

「ううん、イケメンの匂いがする。」
「ばか、嬉しくない。」

拗ねた声が耳に心地よい。

「今日は泊っていけるの?」
「ごめん、明日取材あるから。」

茉由花は申し訳なさそうに謝って俯いた。

「そっか、じゃあ早く帰らないとな。」

俺は努めて明るい声で言った。

「ほら、座んなよ。疲れただろ?」

茉由花はコートをハンガーにかけて、手を洗うと、ソファの定位置に腰を下ろす。

「ああー、疲れたー!」

大きく伸びをして、それからストレッチを始める。

「相変わらず声でかいな」

揶揄うように言うと、茉由花はニヤッと笑った。

「ねえ、紅茶、ちょうだい」

茉由花が甘ったれた声を出す。

「わかったよ、砂糖はどうする?」
「んー、今日は入れちゃう」

食事制限をしている彼女も、大きな仕事がひと段落した日は自分を甘やかすらしい。

「で、DVDは持ってきてくれた?」

水を薬缶にかけながら、絶対YESとは言わないだろうと予想しつつ、ダメ元で尋ねた。

「あー、ごめん、忘れた。」
「って言うと思って、俺買っちゃたんだよな。」
「え、嘘でしょ?」
「ほら、そこにあるよ。テレビデッキのところ。」

顎でデッキを指差すと、茉由花が「あっ」と声をあげた。

「えー、ほんとじゃん。見ないで欲しいのに。」

茉由花がDVDに手を伸ばし、パッケージを訝しげに見つめた。

「これ、悪役極めてるやつだ。よりによって、これ買ったの?」

と不満げに眉をひそめ、台所に立つ俺の方へやってきた。

「持ち帰らせて頂きます。」
「おいっ、それはないだろ。俺が買ったんだぞ。」
「出演者の権限で、まさくんがこれを見ることを禁じます。」



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