確かに俺は文官だが

パチェル

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第1章

自己紹介しよう7

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 冷静になればなるほど、子どもみたいなことを言ってしまった自分が恥ずかしくなってくる。
 ばかだなぁ、あんな風に喋ったらしっかり聞いてもらえないかもしれないじゃないか。
 折角話を聞いてくれる人がいるのに。


 顔があげられなくなってしまうほど顔が熱い。
 恥ずかしかったが、ここでお腹に顔を埋めている高校生なんていないだろうし、聞きたいことの返事がもらえていないと思い顔を上げる。



「ごめんなさい……」

「ん、謝ることないぞ。気にするな。辛いこと、嫌なことは誰だってきついから。同じだ。怖くなるよ。仕方ない」


 慰められてるっぽいことに気付いて、顔をしっかりあげた。優しげに細められる目に戸惑い、目をまた机に戻した。怒られてなさそうだと感じる。二度、三度深く呼吸をした。


 何だか心臓がドキドキしてしまう。変なの。何でこんなに緊張するんだろうか。



 スピカはヒカリが落ち着いた頃合いを見計らって尋ねた。

「ヒカリくん。まだ、お話しできそう? さっき言ってた、レグルス、って誰かな?」


 そう! それを聞きたかったんだ。

「あっ、レグルス、子ども、髪がこれ、目が……これ、誘拐された。どこ? たすかた? うぅん……」

 これ、と指差したのはスピカの腕の服のボタンとセイリオスの持ってるコップ。金色のボタンと青いコップ。
 色合いは少し違うが通じただろうか。

「金? の髪と青い目?」
「きんのかみ! あおいめ! そう!」



 スピカとセイリオスは顔を見合わせている。スピカは首を振ってセイリオスが再びヒカリの手を握った。

「ヒカリくん、レグルスくんは見つかってない。きっと、その出来事は俺たちがヒカリくんを見つけるよりも前の出来事だったんじゃないか?」


 よく分からなくてもう一度聞くと、セイリオスはゆっくり、わかるように言葉を選んだ。
 そこで混乱している記憶からそういえば自分は立派な館に連れていかれて、そこで助けられていたことを思い出した。


「あっ! レグルス、ばいばい。後で、ガラガラ、長い、長い、ずっと、朝、夜、朝、夜、うーん、ひと月?」

 上手く伝わらなかったのでスピカにペンを借りる。そのペンで書類の裏に馬車をかく。


「おー、上手いなぁ。これ馬車か? ヒヒーン?」

 分かってもらえたことに嬉しくて思わず勢いよく頭を振った。そのまま絵を描いていく。セイリオスは慌てて、ヒカリにストップをかけた。

「ちょっと待って、ヒカリくん。紙持ってくるから」


 すぐに紙を持ってきてくれたのでヒカリは描けるだけ描いた。久しぶりに絵を描くから前より下手になっている気がする。線が力強くかけないのだ。
 一つ一つの絵が通じるように丁寧に描く。それだけで手が疲れて、額や掌も汗ばんできた。手が触れていた部分の紙が湿気てふやけた。

 最後にわかる単語を少しいれる。


『はぁっ、できた!』


「これは、すごいなぁ」
「うん、こんな絵の書き方見たことないなぁ、ヒカリくん。すごいなぁ」


 ヒカリの絵は絵画というよりは漫画やイラストの類いだ。書こうと思えば写実的にも描けるが時間がかかる。それに弟の灯はこういう絵を描くととても喜んだので、何でもこういうタッチで書けるようになってしまった。学校の体育祭の予定の表紙や、遠足のしおりの表紙に選ばれたこともある。


 それが、ここに来て意味を伝えて、言葉を理解するのに役立っているのだから何が役に立つかわからないものだ。



 書き上がった絵を指差しながら、説明を続けた。セイリオスとスピカも合間合間に口を挟み、わからなければ聞き、合っているか二人も確認する。

 ただ、どうしてもどこから来たのには上手く答えられなかった。遠い遠い所だと言うことだけは通じたようだった。


 難しすぎたり、後、思い出したくなかったりしたところとかはすごい省いてしまったけど。書き損じたところは黒く塗りつぶした。


 残念ながらやはりレグルスの行方は分からなかった。
 しかし、二人が国に問い合わせてそういう被害にあった子どもや誘拐の件を聞いてくれると言ってくれた。

 ヒカリは嬉々としてレグルスの様子を事細かに書いた。どのような色でどのような服を着ていたか。どのような話をしたか。とてもきれいな字を書いていたことも。儚げな少年で今にも消えてしまいそうだった。
 今もひとりぼっちだったらどうしよう。
 あの、棚の後ろで僕を待ってたら。
 地下室が破壊されて棚から出られなくなって……。




「お願い、レグルス、子ども。泣く、痛い、ダメ。早く、助けて。知りたい」



 ヒカリのお願いは聞いてもらえる保障なんてない。この人たちの仕事がどこまでの管轄で、もし他国が絡んでいるのなら動けないこともあるだろう。
 ヒカリが渡せる対価なんて何もない。

 でも必死だった。ここでレグルスを見放したら自分がもし日本に帰っても灯のお兄ちゃんには戻れそうにないと思ったから。

「僕、なんでもする。売って、どれーなる。なんでも、できること、少ない。お願い。あぁ、えと、気持ちいぃ? も言う。何でも言う。クワエロ? シャブレ? できる。何でも。お願い……」


 背筋が寒くなる。思わず自分で自分を掴む。




「いらない」




 冷たい声にヒカリは恐怖した。





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