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第2章
過保護になるのも仕方がない4
しおりを挟むこの椅子……高いなぁ。
奥まで座ると足がブランブランする。扉を開けて入ってくる人がみんな一度はヒカリを見てくる。
そのたびにヒカリは会釈をした。時々「迷子かぁ?」とか聞かれるので首を振る。
迷子というにはスケールが大きすぎると思うので。
女性と男性の割合は3対7というところか。皆さん、色とりどりの服を着ている。
因みにセイリオスはスーツだ。研究職や医師は白衣を支給される。体が資本の騎士や警吏の人たちは戦闘用の服とマントを、それ以外の人はローブを渡される。
しかしここの人は皆さん私服のようで、いわゆる私服警官のポジションの人たちなんだろう。
何故なら受付の人は制服を着用しているからだ。丸い形でヘルメットぽくなっていて鍔がついている帽子と、少し着丈が長めの上着、ぴっちりと体に沿ったパンツにブーツを履いている。
正直言ってかっこいい。パッと見た瞬間からかっこよすぎてガン見してしまった。黒っぽい色だけれど光沢があって生地も着心地がよさそう。
受付のお兄さんをじぃっと見ていたら目が合った。お兄さんはにこりと笑う。
「たくさん人が通るから気になる? 怖くないかい?」
ヒカリは首を振る。
「怖く、ないです」
「本当に? みんな怖い顔でしょ。仕事終わりだと特に顔が怖くて、何もない日だともうちょっと優しい顔してるんだけど、今日はタイミングが悪かったなぁ」
大捕り物があったらしくて徹夜でてんやわんやしていたらしい。お兄さんは質問をしたけれど、一人で完結してしまった。怖くないのに。
「あの、お父さん、が、いってました。仕事をして、いる、ときは仕事、スイッチ、を入れている。帰ったら、スイッチを、切る。しんどい時は、なかなかスイッチが切れ、なくて、困るって。こんな顔して。……えと、だから、皆の顔、仕事、真面目の証拠です、ね?」
お兄さんはハハハと笑って、さすがセイリオスさんが保護しただけのことはあるなぁと言った。
どういう意味か聞こうと思って息を吸ったらたばこの煙が入ってきて思いっきり咽てしまった。
「あ、けほっけほっ、ん、ごほっ!」
「おい、坊主大丈夫か?」
「おーい窓開けてくれー」
いろんな人がわらわら集まってきて背中などを摩られた。その刺激がよくなかったのかもっと咽てしまう。しまいにはどうした迷子かとまた聞かれてしまった。
一生懸命首を振って。
「っ迷子、違います。お家……あります」
とだけ言った。
ここにいる人たちは背が高いのでヒカリは簡単に埋もれてしまった。怖くはないけど、たくさんの人に咽ただけで囲まれて、甲斐甲斐しくされるとやっぱり子どもと思われているのかと考えて頬が赤くなる。
この後16歳ですって言ったら、皆のリアクションどうなるかな。
耳まで赤くなったところでセイリオスの声が聞こえた。
「なんだ。ヒカリになんかあったのか?」
と足音が近づいてくるからヒカリは慌ててピョコッと立ち上がる。
「セイリオス! ダイジョブ、皆、やさしい。なでなでしてくれただけ、アリガトー。お兄さん、お姉さん」
と椅子を降りて、ぺこりと頭を下げると人の隙間をグイッと押しのけてセイリオスに駆け寄る。勢いあまって抱き着く形になった。
「セイリオス、僕が咳をしたからみんな、心配してくれた」
セイリオスはやはりびくともしないのでそのままの姿勢で背中を摩られる。
「すまん、大丈夫だったか?……そうか、ところで撫でてきた人は誰かわかるか?」
「わかんない。セイリオス、話はどうでしたか?」
ちょっと真顔のセイリオスにそう尋ねれば結果は思わしくなかったようだ。
「ダメだった。例外は認められないと」
受付の人がどうしたものかと頭をひねるので思い切っていってみる。
「セイリオス、あのね。僕は、一人でも大丈夫です。練習一杯したでしょう? すごいっていっぱい言ってくれたでしょう? だから、できると思う」
腕の中で自分の言葉を伝えた。
すると一番奥の扉がバァン!と開いた。
中から髭とか眉毛がまっすぐ垂直に生えているんじゃないかって言うぐらいワイルドさ満点の、頬に大きな傷のある男の人が出てきた。
「セイリオスッ、グッダグダいってねーでお前こそさっさと仕事してこいっ。そんでそいつもさっさと連れて来い。チャコ!!」
体の大きさに比例しているのか、声が大きくてびりびりびりと鼓膜が揺れた。開けた時と同じように扉がバァァァンッと閉まった。
実際ちょっと体が跳ねたと思う。
抱きかかえられている形でセイリオスの胸の中から顔を出し、上を見たままお願いをする。
「セ、セイリオス」
「やっぱり無理だよな? またの……」
「ち、違う。僕、頑張るから」
両手を顔の前で広げる。情けないことに手が震えていた。
「セイリオス、ちょうだい?」
セイリオスは少し止まって、ポケットから包みを一つ出す。今日は金色の包みだった。
「わかった。頑張れ、ヒカリ。ヒカリならきっとできる」
と頭をクシャクシャに撫でてくれた。
本当は頭を撫でてくれるだけでだいぶ嬉しいんだけど、それを口に出すのは恥ずかしいので笑ってごまかしておいた。
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