確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

過保護になるのも仕方がない29

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「だったら、セレクトにしておけばいいんじゃないか? ヒカリとは食文化が違うから、一緒に食べられそうなもの選ぶよ。どうだ」
「え、セイリオス。僕のこころのこえ……」

「いや、もれてた。その口から声出てたから。ククッ。心の声は聞こえてないからな。安心しろ」


 心の声漏れてて、安心してていいのだろうか? 
 一瞬セイリオスがエスパー的な魔法を使ったのかと驚いたヒカリは、そう思って首をひねった。


「で、どうする? セレクトにしておくか?」
「うん、そうする!! なにがあるかなー」


 チケットを買う時に割引券も出す。
 受付の人はにっこり笑っていた。迷っているのをずっと待っていてくれたようで、もう手にはセレクトの券が握られていた。


「セレクトを選んだんならデザートは冷たいのを選びな。おいしいフルーツが入ってるから」
「はい、ありがとう、ございます」


 暑いところで冷たいフルーツ。確かにおいしそう!!

 器をもらってセレクトを選ぶのにも時間がかかってしまって一緒に並んでいたセイリオス達には申し訳ないとは思いつつも、すぐに選べず、結局悩んでいたものをそれぞれセイリオスとチャコが選んでくれてシェアしてくれるらしい。
 食い意地が張っていて恥ずかしいけど、嬉しい。
 また来られるかわからないし、どれもおいしそうなのが問題だと思う。


 窓際の席に着くと声を掛けられた。

「ヒカリー」
「ヒカリくん」
「スピカ! スタンさん。おつかれさま、です」

 振り向くとスピカとスタンが立っていた。
 手には定食を持っている。そのままヒカリの周り空いている隣の席にスピカが座りその前にスタンが座った。


「ヒカリくん、お久しぶりっす。今日はどうしたんですか?」
「今日は、チャコさん、についてきてもらて。図書館に来ました。今からご飯です。セレクトです。おいしそうです」
「そうだったんすね。……ちなみにこれはシェフの気まぐれ定食っす」
「それもおいしそうねー」
「じゃあ、ヒカリの我慢の限界来てるし、食べようか?」

 そうセイリオスが言うものだからついいつもの癖で手を合わせて大きな声で『いただきます』と言うとその流れを知っている三人は合わせてくる。チャコだけ一拍遅れてついてきた。


 集まった大人たちはヒカリが一口食べ、モグモグと咀嚼し、驚いたようにもう一口食べるのを見てから食べ始めた。

 そしてヒカリが興味深そうに見てくると食べているものをヒカリのお皿にのせるので、ヒカリもお返しに美味しかったおかずをお皿におく。

「ヒカリが食べなさい」
「おいしいから、食べて」

 と言われたら断れず、食べると嬉しそうに頬を緩ませる。

『みんなでお昼ご飯食べてると、給食の時間みたいだ』

 と呟くものだから、セイリオスも断れず、ヒカリからもらった焼いた鶏肉をもらいお返しに、自分の焼き魚を大目にヒカリの皿によそっておいた。



 ヒカリはテーブルマナーは悪くないのだが、魚は難しいようでいつもボロボロになった魚をスプーンで食べている。

「ヒカリは魚が苦手なのか?」

 ボロボロになってしまった魚を口に運んだヒカリに尋ねた。

「ううん、好きで、す。僕の国は、魚を食べる方の国だったから、焼いたのも、煮たものも、揚げたものも、そのままも」
「そのまま?」
「あ、えとー。生で!」
「なまー!?」

 隣のスピカが大きな声を出す。

「何でも生に、挑戦する結果。卵も、お肉も、何でも」

「ヒカリくんってどんな秘境から来たんすか?」
「普通よ? どちらかと言えば進んでる方ーだたよ。あ、だったよ」
「じゃなくてっ、ヒカリ! 生はだめ!絶対駄目だよ!」
「はぁい。焼き魚おいしーよ」

 モグモグ食べ進めているから口に合わないことは確かになさそうだ。ならばどうしてぐちゃぐちゃにして食べるのだろうか。

「ヒカリは魚をとるのが苦手なのか?」
「うーん、とっても上手、ではなかったけど。『お箸』があればもう少し、食べやすいと、思うけど」

「お箸?」

「僕の国は、ナイフとフォークとスプーンも使うけど、『お箸』がよく使われてるから、魚は『お箸』で食べ慣れてるの」
「そうか、オハシだな。探してくるよ」
「探してあるかなぁ? 見つからないかもよ?」


 いいや、探してくるとスピカが拳を握りしめ、だからなまは駄目だとなおも言いきかせ、ヒカリは食べないよーと笑っていた。





 因みに、その日の夜。

「ヒカリ何を描いてるんだ?」
「んー、お箸ー」

 ヒカリがある日の食後に絵を描いていた。先程まで探し物がなかなか見つからないとスピカと話していたのだが。

「それが、おはしなのか?」

「そうよ、材料は、固かったらなんでも。丸くてつるつるもあれば、四角とか、もっとカクカクとか、ながーいのとか、色々」
「それで、どうやって食べるんだ?」
「これを、……こうやって……もって」

 ヒカリがお箸なるものを持つ絵をかきあげる。尚更どうやって食べるのかよく分からない。

「挟んで掴む」

 しかも刺す訳じゃなかった!?

「ふふ、これ、だと熱々も食べやすいんだ、よ」
「これは、確かに探してもないな」

 スピカが後ろから覗きこみ、溜め息をつく。

「そうね、ごめんね? 早く描けばよかた」
「いや、俺が勝手に一人で動いたからだな。でもこれなら、な? セイリオス」
「あ? あぁ、そうだな。……任せておけ」

 ヒカリが目をパチパチしながら二人を見上げる。

「え、これ、ある?」
「ふふふ、まぁな」

 この後、セイリオスがお箸を作り始めるのだが、ヒカリにどんな素材のお箸が好きなんだと聞けば。

『若狭塗箸って何でできてるんだろう。貝とか漆とか、竹? 木? どっちだっけ?』

 と言われ、完成が少し遠くなったとか。
  





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