確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意19

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「ヒカリ、そろそろ帰るぞ」

 ソファの上で副課長であるカシオと話し込んでいるのはヒカリだ。
 ただその顔は真っ赤に染まっており、その顔の熱を飛ばすように手で扇いでいる。慌てたスピカが駆け寄りおでこに掌を当てて熱を計った。

「どうした? 熱か?」
「あ、ちがうちがう。ちょとはずかしくなただけ」
「恥ずかしい? 何があった?」

 何があったと聞きつつカシオを睨みつけるスピカに、カシオも驚いて手を上げる。そして首を振りどこからかプッと音を出す。

「おっと、スピカ。まて、私は何もしていません。ヒカリさんが何か言い間違いをして恥ずかしがっているらしいだけです。何でしたっけオカアサンといってたような」
「あっ、フクカチョーさん。やめて。恥ずかしいから」

「私のことを誰かと間違えたように呼び掛けてきたんですよ、ねぇねぇオカアサンって」
『あぁ、まじでやめて! めっちゃ恥ずかしいから。お母さんにも怒られちゃうような間違いを。お母さんがいなくてよかった。あぁ、はずかしい。よかった日本語分かる人いなくて』


 日本語でブツブツ言いながら顔を隠してしまったヒカリの隣で、セイリオスは笑いをこらえていた。
 カシオはヒカリが恥ずかしがるのが面白かったのか。

「ヒカリさんさえよければオカアサンと呼んでもいいですよ?」



 と真面目な顔で追い打ちをかけるものだから、セイリオス一人腹筋が捩れそうになるのと戦うことになった。
 顔を隠したヒカリとスピカがじゃれあっているのを見ているとカシオが隣に立った。


「今日はありがとうございました」
「ヒカリが来たいと言ったからです。それだけなので」
「……あなたもお礼を受け取ってもくれないのですね。まぁ、いいでしょう。それより変態の話は聞きましたか?」


 ヒカリを見たまま答えるそっけないセイリオスにカシオが心の中だけで苦笑を漏らす。
 わかり切ってはいたが、受け取ってもらえないのはやはり寂しいものがあるなと。
 違う話題には飛びついてきた愛弟子の変化を喜ぶ。それも顔に出しはしないが。

「聞きました。ごねているらしいですね」
「私も立ち会っていたのですが、捕まった当初はうなだれて黙秘のような、心ここに非ずのような様子だったのです。しかし今朝になって一転。否認に転じていまして、どう料理しようかと思っているんですよ」
「あなたたちに任せますよ」

 肩を軽く上げてセイリオスが丸投げをしてきた。
 心底めんどくさい。自分らでやれという事だろう。

「……うーん、その信頼に応えられたらいいんですけどね。騎士課の皆さんが思いのほか動いているようで、こちらではさばけない可能性も出てきています」
「そんなにまずいのですか?」
「まあ、実際管轄としては王城内の出来事は騎士課の仕事ですからね。あちらも何とか挽回しようと必死なのでしょう。それより先ほどもヒカリさんに訊いていたのですがDNAの採取はできそうですか?」
「そっちはスピカと共同で行っています。かなり厳しいのですが」

 実はヒカリに聞きたいこととは、そのことだった。
 DNAというものがわかれば犯罪の隠ぺいがかなり難しくなる。そういった仕組みを他にも知らないだろうかと尋ねていたのだ。

「そうですね。彼にもわからないところのある仕組みと言っていましたからねぇ。まぁ、この間の捕り物劇で協力してくれる市民や貴族の方も出てきましたしね。お礼も受け取ってもらえないと貸しが増えるばかりです」
「貸しを作りたくてしているわけではないので」

 少し困ったように眉を下げ、カシオを見るセイリオスはいつか見た時よりもずいぶん柔らかい色をしていた。
 この男も欲がなくって困る。

 いや、欲ならあるか。欲しいものがないわけではないのだろう。

 これ以上話しても借りを返せる算段も取れなさそうなので、疲れたであろう、唯一セイリオスの欲しいものに関連する少年に声を掛けた。

「それはそうとヒカリさん、もうお帰りですか?」

 隠していた手から顔を上げてヒカリが返事をした。

「はい、今日はもうかえります」
「そうですか。もう少しお話ししたかったんですが引き留めるのも変な話ですし。またの機会があればお話ししてくださいね」
「はい、もちろんです」

 ヒカリは立ち上がってここでもあの練習したお辞儀をしようとして、ピッと止まる。
 そして少し考えたのち正面に座っていたカシオの隣に行き何か耳打ちをした。

「ぷっ、……はい、分かりました。お気遣いありがとうございます」
「ずいぶんまたせてしまっているので、ごめんなさいと伝えてください。じゃあ失礼します」

 そこでようやくお辞儀をしてセイリオス達の方へ向かいその手を取った。

「お話終わりましたか? もう帰られますか?」
「おー、終わった終わった。帰るぞー、おー」
「くすくす、かえるぞー、おー」
「……おー」

 セイリオスが遅れてオーを言うとヒカリがますます忍び笑いを漏らす。
 思ったほど事情聴取のダメージはなさそうだと警吏課を出て観察していると、ヒカリと目が合った。

「セイリオス、話、疲れた? ダイジョーブ?」
「そうだなぁ、お腹が減ったかな」


 ヒカリの心配をしていたのに、向こうはこちらの心配をしているのがおかしくなって正直にそう伝えてしまう。
 俺が空いているということはヒカリは相当腹ペコかもしれないなと再び気になってしまう。

 これじゃあ、堂々巡りだ。





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