確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意32

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 スピカがそんなようなことを言っていた。
 体が、以前使ったことがあるものの場合はすぐさまに命の危機とまではいかない。ただ偽反応は出るだろう。
 ふむふむとスピカという主治医のいうことをしっかりメモして聞いていたヒカリは、スピカの独り言もしっかり拾っていた。


 そして同じことを考えていたダーナーとカシオにヒカリも持っていたものを取り出す。


「僕も用意しました。自白剤です。今日のぼくの、話が本当だと証明するのには、それしかないとおもいました。でも、飲むのには、条件があります」


 ダーナーは淀みなくするすると話を続けるヒカリに少し面食らった。
 さっき少し青ざめていたじゃねぇか。なのに自白剤と聞いて少し安堵したような表情をするものだから、こちらの考えがばれてしまったのかと思ったがそうでもないらしい。


「僕がこれを、飲むのは、僕の意志です。飲んで、何でも聞いてください。でもこれにしょめしてほしいんです。署名してもらえないなら僕はそれを飲めません」

 そう説明して二人の前に書類を出した。内容を見てカシオが目を細めた。

「これに署名しろと?」

「はい、僕に万が一があったとき、多分僕の処遇をどうするかってなると思うから。その時はもうしわけないのですが、課長さんと副課長さんにめんどうをみてもらいたいです」

「なんで? 俺らがそんなことしなくちゃならんのだ?」
「僕の話が本当だと、しょうめいするのは難しいです。難民だから、証拠を探すのが、難しいことも、ありました。でも、課長さんたちはそう、じゃないです。僕のことを調べたんですよね。僕が嘘をついていると証明する責任はおたがいにあるから。だたら、これを飲んで嘘じゃないと証明するときに出た結果はお互いの責任になるです? またセイリオスとスピカが面倒を見てしまうかもしれないから。もうこれ以上借りが増えたら返せないと思うから。協力してください」

 長い話なのにそれほどつっかえずにたどたどしくなく話していることから、この文言はかなり考えられて練習されたものだと思われた。しかし。


「しかし、この、万が一生命の危機に陥った場合。あなたは自分の意思で祖国に帰ったことにするのは無理があるかと」
「でも、そうしないと仲直りができないし、皆あぁーってがっかりでしょう? その時用に手紙も用意した、から、それを渡してください。二人とも納得する内容だから」

「それの中身を改めても?」
「……それは、万が一の時に。それに! これもあります!」

 ヒカリが自信満々に取り出したのはこれまた、小瓶が1つ。表にはスピカの字で薬の名前が書いてあった。


「じゃじゃーん! コレはすぴかとくせいの、洗浄剤です。もしぼくに何かあったらコレをすぐ飲ませてください。はい、ふくかちょうさん。持っててください。でこちは、解毒剤。せんじょーざいでぼくが吐き出したあとこれを口にいれて、口を閉じさせてください。これはかちょさんがもててください」

 ヒカリの鞄がいつもパンパンなのは、勉強道具以外にもしもの時用に持たされているものが入っている。
 その中のヒカリ限定簡易救急セットに解毒剤と洗浄剤が入っているのだ。
 もし、外で口にしたものがアレルギー反応を起こした時に洗浄剤を飲ませて口に入ったものを吐き出させる。
 あとは解毒剤を飲ませる事で症状を抑えるのだ。

「ほんと、スピカすごいねー。仕事も研究も毎日毎日、遊ぶ暇ないね。大変大変」


 そう言って手作りの封筒に入れられた手紙を二通を課長の前に差し出した。
 それは、どう考えたって遺書に他ならないのではないかと思い受け取れずにいたら、ヒカリが署名を急かした。


「他にいい案があるなら、僕も考えまするけどずっと考えたけど今のぼくにはこれ以上の案がないです。二人もないなら署名してください。ね?」

 にっこり笑って署名を促すものだから、二人も署名してしまった。
 その途端ヒカリが瓶の中身を一気飲みした。何のためらいもなくゴクリと一息で。


 そしてぽつりと「あれ、おいしぃ」と呟くものだからカシオがとっさに舌を噛んだ。



 ダーナーがあっけに取られている間にヒカリは次の準備に移っている。
 カシオは気を紛らわそうとヒカリが用意した小瓶に手を伸ばしてさらに舌を強く噛んだ。そして震えそうになる声を我慢して努めてにこやかに続ける。


「ヒノさん。こちらはどちらで買われたのですか?」
「えっと、スピカの知り合いのお店で、キハナさんのお店です」
「その時説明は聞かれましたか?」
「はい、自白剤がほしいといったら、どうしてか聞かれて、二人のためにいるんだといったら、体のことを考えて安全なものを売ってくれました。それも飲みましょうか?」


 カシオは小瓶を少し遠くへ遠ざけておいた。


「い、いえいえいえいえ。大丈夫です。それは今後一切外で飲んではいけません。家の中でも気を付けたほうがいいでしょう。二人が後悔する顔が思い浮かびますので」
「ふふふ、自白剤なんてめったに飲まないからだいじょうぶです。ぼくこどもじゃないから」



 そうくすくす笑いながらカバンから紙の束を取り出している。
 これは、やっかいだな。セイリオス、特にスピカに気付かれたらまずいだろう。機会があればこっそり処分しないととこのプレゼンの間にどうやってそれを処分しようかと考えを巡らせたのであった。





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