確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意34

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 ヒカリは必死に言葉を頭の中で紡いでいく。
 自分の気持ちをしっかり話さないから、みんなが困っている。


「あの、ぼく、皆に仲直りしてほしかったの。ぼくがきたことで、家族が、おたがいに、けんかしていやな気持で、いやなかんちがいのままいてほしくなかったから。家族なんでしょ? セイリオスとスピカと課長さんと副課長さん。ぼく、かぞくがぞばにいるのに、ばらばらはいや、だった、から……。ぼくをゆうせんしてほしくなかたの。……っ」


 泣きそうになるのを必死で抑える。
 まだ仲直りしてもらってない。ヒカリは精いっぱいの笑顔を向ける。


「ぼく、たしかに、二人の優しい気持ちを無視した。ごめんなさい。でも、僕も返したかった。二人に優しい気持ち。僕の本当の場所はここにないかも、だけど、二人の場所はずっとここにあるでしょう? 二人の場所を守りたかったの。二人のこと誰にも勘違いしてほしくなかったの! ぼくのしたいことは、二人が二人のままでいて欲しかっただけなの。二人はすごいかっこよい。二人は僕のあこがれ。二人は僕の恩人。せめてかちょさんとふくかちょさんには……」


 だから、これはヒカリのわがまま。

 だから、怒るのなら僕だけを怒って。
 考えなしだった僕だけを。

 だから、軽蔑をするなら僕だけを軽蔑して。
 頼ってばかりの僕だけを。



「課長さんと副課長さんは、本当に悪くないから。二人が心配だから。二人の事すごいすごい大切だから」


 だから、大好きな人がその大好きな人と喧嘩してほしくないだけなのだ。
 本当に我儘。自分のせいで起きた問題なのに、自分の気持ちを押し付けて。

 いい考えだと思ったんだけどなぁとちょっと、いや、かなり落ち込んで、笑顔が保てなくなって俯いてしまった。



「とまぁ、さまざまなコミュニケーション不足が判明したわけですが。ではヒノさん。私たちから弁明させてもらってもいいですか?」

「え? はい」

「まず私たちが用意したのは偽の自白剤です。スピカ、あなた申請書を確認してきましたか? それのシリアルナンバーを確認したら気付くと思いますが、それは違う事案に使ったものです。未明に使って、そのまま小瓶を洗浄して中には最近巷で流行りの飲み物を入れておきました。ちょっとした覚悟を見たいなと思いまして」

 ヒカリの方を見てそう言うカシオは少し可笑しそうだ。


「まぁ、まさかヒノさんも用意してると思わず、さらにはこんなものを用意して署名させられたと思えばすぐに飲み干してしまって。挙句に美味しいとこぼすんですから。さらにヒノさんの用意した小瓶を見た私の気持ちになってください。そりゃ笑うでしょう? しかも何の確認もせずにやってきたスピカの発言で押さえていた笑いがこぼれて、もうその後はご存じですけど、私を笑い死にさせる気ですか。はぁ、疲れた。もうお腹いっぱいです」


 本当に疲れたようで目頭をぎゅっと抑えたり頬の筋肉をぐりぐりと揉みこんでいる。

「で、スピカ。何か聞きたいことがあるのでしょう? ヒノさんに」
「あぁ、ヒカリ。これを以前飲んだと言ったよな? どこで?」
「えと、僕がレグルスじゃないってばれたところ。飲まされて、名前を言ったらあの、あつかいがその、前よりひどくなて。で、その小瓶の見た目で気付いた。あの時飲んだ奴だって」
「それはどんな味だった?」

「のどに通ったときにびりびりしておなかの中に行くまで、ビリビリして焼けるみたいだった。でもおなかの中イッタラ、お腹がふくらんで鼻と口から一杯空気が出たよ。味なんかない。それ飲んだら嘘つけなかったから」
「嘘ってどんな嘘だ?」


 すごく言いたくないなぁと思ったけど真剣なスピカに促されたのでヒカリも少し思い出しながら返事をした。ちゃんと思い出さないと。


「あー、えと、その……スキとか、キモチイとか、モットとか、ホシイとか、いえっていわれてもいえなかた。そう言わないと怒られるとおもたのに。日本語でも言った。『離せ。触るな。気持ち悪い、消えろやめろこわい』だから、あれ本物だと思う」

「それはこれと同じ小瓶に入っていたのか?」


 もう一度念押しのようにスピカがきいてきたので、ヒカリはまじまじと小瓶を見て頷く。

「ここにこの『ラベル』にお花の模様あるでしょう? ゆかになげられたときに、そのこびんがとなりにころころってなて、あ、あんなあじ、なのに、かわいいお花のもようかいてるんだ。きっと毒をもつ花なの、かな。で割れた破片がここに刺さったときにね、ほら、ガラスの表面の模様がぼこぼこしているでしょう。よくみると『ラベル』のお花から出てて、つるみたいに一本の茎が巻きついているみたいだなとおもたから。たぶん」

「そう、か。ヒカリ。こっちおいで」


 隣に座っているのに変なことを言うスピカは、両手をゆっくり開いてヒカリを招く。どうしたんだろうか。

「ヒカリ?」
「はぁい?」


 返事をしながらゆっくり体を傾けて真正面から迎え入れられる。ゆっくりゆっくりスピカが力を入れてヒカリを抱きしめた。

「ヒカリ。俺たちのこと考えてくれてありがとう。でも俺は、……っ」

 そこからヒカリを閉じ込めてスピカが止まってしまった。
 さっきまで怒ってたのに、どうしたんだろう。仲直りも終わっていないし。


 後ろからヒカリと声を掛けてセイリオスが頭を撫でた。

「ヒカリ、俺たちの言いたいことは伝わったか?」
「うん、うん」
「わからなくなったら何度でも聞いてくれ。俺たちは何度でも言う。俺たちはヒカリが大切で大好きだ。俺たちの目の前からいなくなる時は本当の家に帰ったときだけにしてくれ」
「…うんっ!」


 でも、絶対僕の方が二人のことが大切で大好きだと思うけど。

「でも、その、これで、みんな、仲直りしてくれますか?」

 ヒカリはスピカの腕の中から「皆」を見回す。ダーナーが大きくため息をついた。


「お前、嘘ついたな」

「え、ついてないよ」
「喧嘩の仲裁はへったくそだ。こんな強引な仲直りってあるか?」


 ダーナーがあきれたようにヒカリを見た。ヒカリも思わずふへっと笑ってしまった。

「これは僕の……えと『流儀』だから」
「流儀、な」


 セイリオスが言葉をすかさず教えてくれる。

「とんだ流儀だ。俺には真似できねぇわ」

「おわりよければすべてよし、だって。お兄ちゃんが言ってたから。結果オーライ」
「結果おーらい? お前は意外に減らず口だな。頑固だし。可愛げねぇ」

「かわいいよりかっこいいをめざしてるから。仕方ないです」
「そういうとこだ」


 ヒカリを抱えているスピカの腕がフルフルと震えている。どうしたのかとそっと腕に手を添える。

「あぁ、もう、ヒカリは! 何で笑かしてくるんだよ。もうっ」

 どうやら笑っていたみたいだ。









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