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第2章
暗躍するのはそこそこ得意41
しおりを挟むカシオの説教はただ懇々と考えさせるものだった。
ダーナーは一発お見舞いして終わりだが、カシオは長い。
一度始まると長い。
だから腹ごしらえを頼んでいたのだが、如何せん眠くなってきた。
こいつが説教するってことは見込みがあると思っている証拠だから頑張り給え。
こいつは見放したら説教すらしない。
つまり、こいつもお前たちのこと、ヒノ風にいうのなら大好きってことなんだぞと睡魔にあらがえずダーナーが腕を組んだまま俯いて、寝た。
カシオは冷静に、あ、こいつ寝たな。
と思ったが一度始まったら止まらない。
止めようとも思わない説教を続けた。
聞いていた二人がシナシナになってしまうくらいまでは続けた。
ダーナーが目覚めたころには塩をかけた青菜のような弟子が二人出来上がっていた。
「あ、おわった?…という事でお前らの戸惑いや怖いと思う事はよーくわかる。経験者だからな。お前らと違ってヒノを鍛えるのには限度があるんだろう? 主治医が言うには。だから過保護になるのもよーっく分かる」
さも、ずっと聞いていたよ、俺は、という雰囲気を出してダーナーが言う。
「でもな、あの子はお前らのためなら怒ってこんな俺にも噛みついてきたんだ。男気なら、度胸なら、無鉄砲さならお前らより上かも知らん。要は、危ないんだ。だから、ちゃーんと面倒見てやれ。言葉の勉強ならカシオにも手伝えるだろう。いつでも頼れ。俺たちは足搔く若者は大好物だ。手取り足取り教えてやる」
そしてダーナーが立ち上がるとカシオも立ち上がった。
あんまりこいつらの睡眠時間を削らせるとヒノが怒るかもしれないなと思って、フッと笑ってしまった。
セイリオスも立ち上がりかけていたコートをダーナーに渡す。
カシオにはスピカが渡していた。
「今日はありがとうございました」
「言っとくけど、俺はお前ら三人のために言ってるんだからな。誰か一人じゃねぇぞ。あと、寝ろ!ちゃんと寝ろよ! じゃあな」
ダーナーはふんっと鼻息を1つ吐き出して外に出ていった。
「では、お邪魔しました。もう今日ですが、ヒノさんに意思確認するようお願いしますよ。今日、怖じ気づいて言ってなかったら……。では、失礼しますね」
カシオは右眉をクイッと上げて二人を見てから、プッという音ともに去っていった。
そして残された二人はとてつもない疲労感にソファに身を沈めた。
沈黙がふたりの間を流れる。早く寝ないととは思うのだが、如何せん目が冴えた。
「なぁ、なんか眠れる効果のある薬とかないのか」
「……茶ならあるけど」
「頼む」
スピカが入れたお茶を一気に飲み干して、そして二人して溜め息をついた。
唐突にスピカがセイリオスに声を掛けた。
「なぁ、俺のこと殴ってくれない?」
「……俺も丁度、そうして欲しいと思ってたとこだった」
セイリオスがそう返事すると大きな音が出せないスピカがソファの上で正座をして頭を自分の太腿に打ちつけた。
「俺、さいってーだわ。ほんと。マジキモい。自分に鳥肌立つわ。俺の想像力……死ね」
「言うな。俺もちょっと、いや、大分、自分にブリザードをかけたいくらいにはなってる」
簡単に言うと二人は口達者なカシオの言葉によって想像してしまったのだ。
ヒカリの痴態を。
確かにヒカリの肌は肌理が細やかで触れると指が沈み、しかし、吸い付くような弾力と柔らかさがある。
ヒカリから溢れる笑い声は心をくすぐり、洩れる少しの声は艶やかだ。
あのすらりとした手足にすがりつかれたら。
全部、知っている。
知っているが、それを想像したことはなかった。
そして想像してしまった自分たちにかなり吐き気がしている。
それを想像してしまったことが問題で、かなりの嫌悪感がぐるぐると胸のなかに居座って眠れそうにないのだ。
「下半身は時折、言うことを聞いてくれないとは思ってたけど。それで責任転嫁しちゃったら、ダメだろうな」
こんなことでカシオが言ってた通りのことができるのだろうか。
二人は途方にくれた。
因みにカシオにとってはお仕置きの意味も込めてわざと明確な言葉を避けて、二人の想像力を掻き立ててやったのだ。
お前ら、もし、手を出してごらん。
その瞬間、お前らが嫌悪したクソどもと一緒だぞと。
その嫌悪感をしっかり覚えておけよ。
万が一にも億が一にもそういうことはしないとは思うが、どんなことがあるかわからない。
念には念を入れる。
それで泣きを見るのはかわいい子たちなのだ。
カシオは一人頷きながら仕事場へと向かった。
そして、その後。
実際にお互い殴りあって、スピカが治療して、体力を使い果たして寝た。
自己治癒力を使うとかなりのエネルギー消費になるので、すぐに眠りに着くことができた。
起きたらヒカリがおはよう! と笑顔で言うものだから、お互いますます申し訳なさとトラウマの治療を行いたいという事が言えずに変な空気になってしまっていたのだ。
ヒカリが一人で二階にすっこんでしまった後も、セイリオスとスピカはどちらが言いだすか、どんな風に説明しようかと相談していたのだ。
自分から話し始めるまで待ちたい気持ちもあるが、一人で他人と関わらないといけないのだから、そう時間に余裕があるわけでもない。
なんか泣きたくなってきたとスピカがつぶやいたところでヒカリがすっ転んだのだった。
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