確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
161 / 424
第3章

長すぎた一日11

しおりを挟む



 
「すいませーん。魔道具関連課から応援に決ましたぁ」

 その声を聴いてダーナーは、えっと思ったし、実際「えっ」と言った。
 目撃証言がないか聞き込みをしているときに届いた声だったから、変に聞こえたと思ったのだ。


 振り返った先ではニコニコとして、頭を掻きながら、照れるなあという顔で立っている男と目が合った。
 横には大きな革のカバンが置いてある。



「応援要請に応えてやってきました! ケーティ・アルタミラですっ。久しぶりー、ダーナー」
「なんで、お前なんだよ」

「何でって? 何が? え、もしかして、またやっちゃった?」
「……俺は、事件現場の検証に有効な魔道具に詳しい奴を呼んできてくれって要請したんだけどなぁ?」


 なぁと言いながら、ブオンという風が吹くくらいの勢いで顔を上げ、何故か呼びに行った警吏課の職員を睨みつけてダーナーがきく。
 職員はその風の音を武音と名付けようかと思うぐらい、決してさわやかではないぬるい風が顔面にぶつかってきた。


 ダーナーとしては現場検証や証拠を集めるのに便利な魔道具を使って、さっさとあたりをつけようとした。
 しかし、自分はそれらに詳しくない。詳しいカシオは出払っているので、次に詳しいセイリオスを呼びたかったのだが、ややこしくてめんどくさい人物が来てしまった。


「ちょっとちょっとぉ。ダーナーってば。こっちこっち。大丈夫? お疲れなんじゃないかな。仕事のし過ぎじゃないの?」
「至って正常だこらぁ」
「ほんとだぁ。いつもの変な語尾がついてて可愛いなあ」
「……ごらぁ」


 そして、苦手だった。苦手なのになぜか縁があって。


「現場検証に有効な魔道具に関して詳しいって言えば、あの職場ではセイリオスくんとヒノくんと僕ぐらいだからね。空いている僕が来るのが当然でしょう」
「あ? セイリオスはどうしたんだよ」

「彼? 彼は別の応援に出向いたから……。あー、わかった! ダーナーってばセイリオスくんに会いたかったんだ。ごめんごめん」


 そして、可愛い教え子を掻っ攫っていった人物でもある。


 頭が痛くなってきたダーナーは視線をキラキラしている男から外した。
 そいつはというと自分を連れてきた部下にダーナーは僕にセイリオスくんを取られた気がしているから、つんつんしちゃうんだよ。だから、気にしないでね。素直じゃないんだ。人の幸せを願えるいい人なんだよとか話し始めて、部下もはぁと意味のない音で返事をしている。


 こいつが来ると緊張感がなくなる。
 ……でも、こいつは完璧なお花畑じゃねぇのがややこしい。


「で、セイリオスは?」
「先にこっちの案件の話聞いていいかな? それ終わってから話すのでいいかな?」


 ダーナーが対応室へ案内しながら説明し終えた後、ケーティは何でもない顔で、部屋中を歩き回っていた。

 何だかよくわからないが、靴の上から布を着て歩き回っている。ダーナーも履かされた。


「それ、本当? 嘘でしょ? ダーナー、何ぼさっとしてたの? 信じられないよ。ね、目玉付いてる? それ、ちゃんと光通しているよね? ありえないよ。セイリオスくんの事を泣かしたらただじゃおかないとか、ちゃんと面倒を見てやれとか、ややこしいことに巻き込んだら殺すとか言ってきていたのに」

「いやっ、だからな」

「それ、自分に言った方がよかったんじゃない? さいってー。セイリオスくんがどんなにヒカリくんの事を心配しているのか知らないの? そういう時は、ヒカリくんごと遠いところに逃げちゃえばいいんだよ。で、クズどもはほかの誰かに任せたらいいし。ヒカリくんがいい子なことなんか調べたら見当つくんだから。利用されたんじゃないの? ね? そっか。ダーナーは誘拐とかされたことないから知らないんだ」

「いや、おれ、けいり……」

「あのね、誘拐犯はターゲットのことをそれはそれは執拗に調べるんだ。その本体が欲しいか、その本体に付属する何かが欲しいかで扱いも変わるしね。警吏課なんだったら知っておいた方がいいんじゃない? だから、あ、ここ。机を動かしたような跡があるね」


 あたりを観察しながら淀みなくダーナーを罵倒し続け、ダーナーが、う、とか、あ、とか声を出すしかない中、しゃがみこんで机の脚を舐めまわすように見始めた青年は、いつもは気にもせずさらさらと風になびかせているキラキラした真白い髪の毛を無造作に一纏めにしていて見慣れない。

 いつのまにか手袋もしている。ダーナーが机にさわろうとすれば、手袋!と強めに言われた。


「一先ず、指紋採取しちゃおうか」

 べたべたと一面に液体を塗りたくるのをダーナーも手伝い、紙を張り付けていく。
 そして指紋を採取した。結構取れたなと呟きながらそれを大きな革のカバンから出した透明なケースにしまい込む。


「うーん、やっぱり油脂に反応しているから、こういうのも取れるんだなぁ」

 とかなんとか呟きながら、次に取り出したのは。


「沈黙の雷光? 静かなる稲光?」
「え、ダーナー、うちの新作をよく知っているねー。でもね、これはそれとは使用目的が違うんだよ。あれは雷力を攻撃に使うんだけど、こっちは純粋に光として使うんだよ」







 魔力を有する器のあるものはたとえその身に魔力を宿していなくても、魔力を与えられれば反応をする。
 この雷力浸透装置はそれを応用した魔道具である。


 雷力は極めて力が強く、適性がない場合は使用できず、使える者は限られている。

 しかし、その魔石があればだれでも使える。
 家庭用ライトに使用されているのがその光力を使用しているものだ。
 かなりの安全措置を施されているので危険はない。
 それを攻撃に使用する目的で改造されていたのが、今回ヒカリが使用している、または以前使用された、スタンガンもどきである。 


 因みに小さな魔石はそのまま使われたりもするが、大きい魔石はそのまま使うと威力が大変なことになるのでカットして使う。

 綺麗に割れたものは使う要領がいいので値段も少しお高くなる。更にカットも一筋縄ではいかない。無駄なくカットするために、魔石のカットをする職人がいるぐらいである。

 ただしカットの仕方は宝石のようにはしない。大抵四角に近い形で割り出される。小さいものは石ができたままの形で使われる。


 しかし、スタンガンもどきは極めて小さく削られた魔石を使用しており、その魔石の削り方が重要であるようだった。
 魔石の表面を極めて細かく磨き、雫型に磨き上げる。
 磨き上げた先端をこれまた針のように細く磨く。宝石のカッティングと言われても納得できるものだった。
   


 そうしてできた魔石を棒の中に設置する。

 装置の仕組み自体も一点集中で放出する回路を組めば、小さいながらも強力な雷力が放出される。魔石をこのようにカットすることは常識では考えられなかった。
 貴重な魔石を無駄に削って体積を小さくすることなど無駄の一言に尽きるだろう。しかしこれは必要最低限のカットの仕方で威力を高められたものだ。



 ヒカリに使用された魔道具は先端の部分が5層になっていて、威力を調整するためのクズ魔石が入れられるようになっていた。
 それによって殺すか、気絶させるか、脅すかの用途で強弱を使い分けられるようになっていた。




 それをセイリオスは持ち帰って職場で分解して、フムと一言。
 上司がやってきてふーんと一言。


 で、魔石をポイッと渡されたのはタウだった。

「え、何?……雷石? だから、二人のその無言の連携、俺には理解不能ですからね」
「タウ、お前だったらそれどれくらい細かくできる?」
「これ? ……とりあえず4分の3ぐらいにはできるかな?」
「じゃあ、とりあえず細かさの限界突破してみようかー。ダナブくん?」

 タウが申告した通りの見本より小さい雷石が渡される。

 雷石を細工するなんてことは初めてだが、硬さはかなり頑丈だっと記憶しているタウは、自分のカバンの中から鑑定眼鏡と削るための道具と磨くための道具を一式取り出し拡げる。


「言っとくけど、集中するからあんまり喋り掛けないでください。気が散ると爆発しますからね。魔石」

「お前がそんなヘマするのか」
「しないよ。ダナブくんが気が散るのは隣に可愛い女の子が通った時ぐらいだから、気にしない気にしない」


「それ、褒めてないですよ。ボス……」






 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...