確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

因みに俺の胸にもあるんです2

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 くふふとヒカリが笑う。
 スピカの胸を後頭部でポフポフしている。ヒカリが時々、こっそり、本人は気付かれていないつもりだがする遊びだ。
 寝転んで他愛もない話をしているときによくするしぐさでスピカは気づかないふりをしていた。

 気づいたらやめてしまいそうで。


 あ、そうだとヒカリがスピカの手を頼りにこちらへ顔を向ける。困ったように眉を下げている。


「あのね、何も見えない、聞こえないの、なんで?」


 これは、まずいな。記憶が全く定着していない。薬の偽反応か。
 スピカは慣れない日本語をヒカリの背中に書いて伝える。


 ヒカリはふんふん言いながら、よく話を理解してくれたようだった。
 どうやら、少し興奮している状態のようでテンションが高くて、なんもみえなくてきこえないってふしぎー、ここにすぴかいるー? などと笑っている。



 脳の機能に異常が出たままなのが恐ろしく、スピカは頭のなかで治療方針を考えているとヒカリが静かになって。



 モゾモゾしている。

「おいおいおいー、ヒカリー……? 俺は太腿かー」



 ヒカリはスピカの太腿に自分を擦り付けて、ふぅふぅと息を吐いている。
 そのまま少し待ったのだが、やはり、快感を追い求め切れずに、ふうーと大きく息を吐いて途中でやめてしまう。あのときのままシャツ一枚にパンツ一枚で、だから、ヒカリの状態がよくわかる。


「ヒカリ、熱いなぁ。熱が上がってきたなぁ」

 どうしようかと答えのない問いをかける。
 ヒカリから手を離すとすかさず見えないのにスピカの瞳を探して顔をあげる。両手で離そうとするスピカの手を捕まえて。


「離しちゃうの? はなし、ちゃうの?」


 とシクシク胸に顔を隠して泣き始めてしまう。躁と鬱が交互にやって来てますます心配になる。



 あと、自分の情緒がバーストを起こしている。
 クスクス笑うヒカリとシクシク泣いているヒカリ。なんか、胸が締め付けられる。


 MAX甘えたのヒカリはスピカの父性か母性よくわからないものを刺激しまくり、スピカの可愛いメーターが振り切った。



 俺は何にも気づいていない。よって、そういう雰囲気ではない。決して。そして、セイリオス早く帰ってきてくれ。


 膝が緊張で時々動いてしまうとあうぅと言ってヒカリの腰が逃げた。
 でもしばらくすると、思い出したかのようにまた、こすりつける。

 ヒカリ、水飲むかと聞けば「うん、のむー」と言う。
 その間ヒカリの頭を肩に乗せて、吸い飲みで自分の口に水を含み、ヒカリに水を飲ませる。お腹すいたかと聞けば「うーん、たべなーい」と言う。

 ヒカリが食べないというのはかなり大変な事態だ。


 これももしかしたら、飲まされた薬と関係があるのかもしれない。
 ヒカリは保護された当初すごく痩せていた。薬にそういう作用があるとしたらどうだろうか。しかし、人形の媚薬には食欲減退の作用はなかったはずだ。
 さまざまな機能が緩やかになるから、消化なども緩やかになったとしても、食べないという選択肢はない。昨日の朝から何も食べていないのだから。


 だとすれば、ヒカリが人形の媚薬を飲まされていた時に食欲減退の薬も飲まされていたと考えるほうがいいのかもしれない。偽反応か。

 とりあえず作った滋養スープを漉して、水と同じように飲ませるか。



 と、ヒカリをあやしながら考える。
 わかっている。これは脳内が落ち着こうとする時間稼ぎだ。

 これ以上熱が上がったら、魔紙でセイリオスを呼び出そうかと思ったときただいまーと階下から聞こえた。



 俺のメシア!

 いやいや、違う。あんなのは俺のメシアじゃない。危ない危ない。



 戸口からちらりとこちらを見てセイリオスはすたすた近寄ってきて青い軟膏をとった。

「俺が抱えるから、また、頼む」


 少し見ただけでヒカリの状態がわかるとは、と驚いていたが赤く染まった頬にうっすら開いた唇、赤い目元。
 あぁ、これはそう思うか。と起き上がってヒカリを預けようとするが、ヒカリがいやいやと何も言わずに首をふるう。


 少しそうしていたが、小さい声でヒカリがとどめを刺す。



「す、すぴかぁ。ぼくのこと、きらいなの? おこってるの? どうしてぇ。ごめんなさい」



 セイリオスはそのしぐさにギクリとする。


 スピカは何にも言わないが、だろう。かわいいよなぁとため息をついた。


「おとしちゃうの?」
「落とさない落とさない」


 とぎゅっとすると、ふへへと笑ってスピカの胸に頬ずりをした。
 こっそりパクリと胸を食んでもいる。全然隠れられていないけど、こっそりと。


 ほうほう、どんだけ好きなんだよ。俺の胸。こんなところに需要あったとは知らなかったなぁ。くすぐったいなぁとスピカは少し遠い目をした。











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