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第4章
忙しいのは変わらない9
しおりを挟む一週間もすれば、世の中の出来事の多くは何の心構えもなく始まっていくものだなぁなどと、少ししんみりでき始めた。
後であのサプライズにはどう返すのが正しかったのか、ヒカリはいまだわからない。
「おい、ぼさっとするなよ。前見えてるか?」
「はい、先輩!」
ヒカリの主な指導をしてくれることになったのは、セイリオスと一番若手の先輩の二人である。
ほかの先輩方ももちろん指導してくれるが、大体どちらかと一緒にいる。
セイリオスはもちろんヒカリと一番慣れているからという理由だから。
そしてもう一人の先輩が抜擢された理由は、今年の春に配属された職員なので、研修の記憶も新しいでしょう? できるよね? と言うケーティ課長の一声である。
この先輩、エリオットは最初嫌がっていたのだが、ほかの人が立候補した途端このエリオットが突然焦ってそれなら俺がやります! と鼻息荒くちょっと怒り気味で引き受けてくれたのだ。
エリオットは最初に各業務の案内をした。
そのうえで初めにやるなら王城内からの方がいいだろうと、魔道具貸出修理依頼業務から始めた。
どこの部署も予算が決まっており、年度途中の魔道具購入などは高価なものであればあるほど申請が通りづらい。
そういう時に使われるのが魔道具の備品申請である。
ずっと必要だというわけでない、急に必要になったモノなどは申請して許可を取って借りたほうがとてもお安いのだ。
修理も請け負っている。
それの受付と申請が通ったものをお知らせしに行くという業務だ。
どのような魔道具が存在し普及しているか。
壊れやすいものは何か。
どこの部署が何を必要としているか。
というかどの部署にどのような人がいるか。
王城内の地図を把握することもできるから一石二鳥のならぬ一石五鳥の仕事である。
それに気付いたときのヒカリはエリオット先輩すげぇである。
目からキラキラ出ていて、ちょっとエリオットが引いているのを遠くからタウが見て笑っていた。
「そうだ。ヒノ。今日のお昼はどうするんだ? セイリオスさん、街に出てるから時間が読めないって言ってたけど」
「はい! お弁当ある、ので、机で食べます」
「あぁ、自分の席? それならいいけど」
休みを挟んで本日出勤5日目なのである。
毎日、お昼はセイリオスと移動して食堂へと行っていたので聞かれたのだろう。
「もし、魔道具関連課以外のところに行くところあったら、俺かセイリオスさんかダナブさんに言うんだぞ」
これも口酸っぱくエリオットに何度も言われている。
もしや、王城内で拉致られたことから迷子を心配されているのかもしれないなと少し申し訳ない。
今のところ名誉挽回できる機会がなく良い返事くらいしかできないので、エリオットに対してヒカリはすごくいい返事をすることにしている。
「はい!」
しかし、いつ聞いても同じように返事だけはきはきしており、「はい」の後に確実に!のマークがついている気がするヒカリの返事はエリオットには心配の種であることにはヒカリは気付かないままだ。
確かに任せた仕事は結構まじめにやるし問題も起きていない。
ただ、ただ、なんかちょっと心配なのだ。
エリオットもどんなことにもいい返事をされて悪い気もしないので俺が見ておけばいいかと思って、過保護になってきているのはタウだけが感じていた。
だから、本日はセイリオスがいない昼食をとるヒカリを見ていた。
すると目が合ったヒカリがソファに座っていたエリオットの近くへ来てニコニコする。
「先輩も、いまから、ごはんですか? いっしょいいですか?」
「え、別に……」
と言うことで一緒に食べることになって、俺は別にお前と仲良しこよしと言うわけではないんだけどと思って無言で食べていた。
無言で食べているエリオットをヒカリがご飯を食べすにずっと無言で見てくるものだから気になって、結局口を開いた。
「なんだよ」
「あ、えと、それは何のパンですか?」
「は? これ? これは俺の家の近くにあるパン屋のサンドだけど」
「オイシイですか?」
「まぁまぁじゃね?」
「その赤いソースからいですか?」
「辛いけど? 何?」
聞けば、ヒカリは今は家事分担で朝のお弁当作りを任されているらしい。
大抵サンドイッチになるのだが、マンネリにならないように色々な味を知りたいのだとか。
別にパン屋ぐらいどこにでもあるだろうと言えば、あまり町のことを知らないという。
そういえばこいつ移民だったかと思い出す。
何故かそうは思えなくて、こんなにすぐなじむかというほど自然になじんでいるので忘れてしまうが、難民からの移民である。
言葉だって確実に慣れていないのに、それも違和感がない。
見た目だってそうだ。
黒髪に黒目なんてまず見たことがない色合いだ。
さらさら揺れる黒髪に、ヒカリを知らない人はつい目で追ってしまうくらい珍しい。
それぐらい遠い所から来たということの証明だろう。
だから気にせず、つい聞いてしまったのだ。
どこから来たのかと。
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