確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

忙しいのは変わらない22

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「う、うぁ」
「痛い? それとも気持ちいい?」
「いた、きもちいぃ」


 喫茶店からの帰り道、二人は歩いて帰った。いつもなら馬車に乗って帰るのだがテクテクと街並みを見ながら歩いた。

 とても寒かったのだが、歩いているとそれも気にならなくなって、二人で気になったお店に今度行こうと話したりただただ何も言わず歩いた時間もあった。 


 家のチャイムを鳴らすと先に帰ってきていたセイリオスがエプロン姿でお帰りと出迎えた。



「先に風呂にするか? 歩いて帰ってきたんだろ?」

 セイリオスが今日のご飯とお風呂の準備を終わらせていたみたいで、三人でお風呂に入って、部屋着に着替えて、ご飯を食べて、ちょっと食後のお茶とか飲んで帰り道見てきたお店の話をしたりして。



 気付いたら脹脛とか脛とかがすっごく痛かった。


 一人プルプル、コップを運んでいたらセイリオスに気付かれてお皿を取り上げられて、そのままスピカに連行されてソファの上でマッサージを受けている。


 だから、痛、気持ちいい。

「今日、絶対、一万回、あるいたとおもう」
「一万歩? いやー、もっと歩いただろ?」


 スピカが座っているヒカリの足首を持ってくるくる回している。


「でも、楽しかった」
「そう? じゃあ、また歩こう」
「そうだな。時間に余裕があるし、寒すぎたら厳しいけど」


 セイリオスが今に戻ってきた。ふかふかのブランケットを持っている。
 それは僕のブランケットでセイリオスの部屋に置いてあったやつ。

「そうなったら、俺のコートに入れて抱っこしていけばいいんじゃない?」
「ふふふ」



 他愛もない話がふと途切れた。
 足元にスピカが座ったまま、隣にセイリオスが立って。

「じゃあ、ヒカリ。特訓始めようか?」



 そのブランケットにくるくるとくるまれてあれよあれよという間に運ばれてしまった。







「今日はヒカリに質問していってもいいかな。嫌だったら嫌、答えたくなかったら答えたくないって言う事。それが約束、できる?」
「できる」


 少し暗くした明かりの下、セイリオスのベッドで三人で輪になって座っている。
 温かい飲み物も用意されていて、部屋には青リンゴのような匂いが時々ふわっと鼻をかすめる。



 僕の好きなカミツレだろうか。

 いつもはヒカリが好きに話すばかりで二人はただ聞いているだけ。

 今日はいつもと少し違う。



「じゃあ、最近自分が嫌だったこと、ひとつひとつ教えて」

 スピカの目の奥がメラメラしている。燃えているみたいだ。
 最近分かったことが一つある。



 スピカの瞳が暗く燃えるとき、それは怒っているという事。
 でも、目の前のヒカリにではないという事。
 いつもトラウマの特訓の時に燃えていると気付いた。



 だから、ヒカリは落ち着いて話すことができる。

 同情でも、憐憫でもなく、怒っているから。
 スピカの正義が燃えて、ヒカリの代わりに怒っているから、ヒカリは話す理不尽に負けることなく話せる。


 じっくり見ないとわからない。
 怒ってなさそうなのに、声だっていつになく優しくって、その熱に溶けてしまいそうになる。


 教えて、聞かせて、それで、そうか、そう思ったんだね、そっか、そう。


 その熱がヒカリをぐずぐずに溶かすから、心がむき出しになっても暖かくて。





 ハーブティーを一口飲んで、ポツリと話し始めた。


 土木管理課でのこと。
 雑談が多いこと。
 内容がプライベートな事ばかりで話辛いこと。
 仕事がうまくできない事。
 それなのに、相手に少し苛ついてしまう事。


 聞けば、普通の仕事の愚痴だ。
 よくある。
 合わない相手というのはどこにでもいるのだ。


 ヒカリもそれは仕方のないことだし、さっさと仕事を終わらせればいいだけとはわかっているのだろう。

 スピカも相槌を打って話を聞いていた。
 以前聞かせてくれた愚痴のほかにもあったのか。
 もう少しつつけば良かったかなとハーブティーのお代わりをそそぐ。


「でも、その土木関連課の人って、俺と一緒に行ったときに紹介した人じゃないんだろう? 」
「えっと、その人が、最初、来てくれた。でも、よくわからないけど、いつの間にかあの人も来てて」
「ふんふん、それで?」


 ヒカリが再びお茶を飲もうとするも、震えて口許まで運べない。


 セイリオスがヒカリの背中に手を伸ばす。ブランケットを肩まで引っ張ってかけてくれる。そのまま、肩をポンポンと包む。



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