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第4章
忙しいのは変わらない16
しおりを挟む痛い、とかじゃなくて。
びくっとして動けなくなったら、笑われて。
「こんなことにビビってるのか? まだまだだな。それとも、そういうことか?」
そういうことがどういうことかわからないけど、このコミュニケーションの取り方はちょっとなと思ったので伝えてみた。
「あ、あの、あんまりそーゆーのは」
「そういうのって?」
「そ、その、叩いたりとか」
「痛いのは嫌なのか。わかったわかった」
絶対わかってなさそうと思ったけど、次の日からは叩かれなくなった。
ほかにも「ん?」と思うことがある。
例えば、こんなこと。
「次の道具はあの棚の一番上だな」
「はい。えっと」
「あぁこの脚立をっ、使って取ったらいいんじゃないか?」
その道具はよく使われる頻度の高いものでどうしてあんな棚の一番上の取りにくい所に置いてあるのか、改善したほうがいいんじゃないかとか思いながら脚立に手をかける。
ていうか、高さ的にはちょっと台とかに上がったら土木管理課の人が取れそうな位置にあるんだけど、わざわざ脚立持ってこられたしなとか思って、これも仕事だと脚立に足を乗せた。
「脚立は俺が持っておくからゆっくり上りな」
「はい」
一番上までゆっくり上ってみてみると他は埃がかぶっているのに目的の箱だけ、埃がかぶってなくて手が汚れなさそうでよかったとか考えていたら、やたら静かなのが気になってちょっと振り返って下を向いた。
振り返ったのにも気づかないのにその人がずっと上を見てて。
「あ、あの箱、うけとって、もらっても、いいですか?」
と言ったらようやく目が合って受け取ってもらえた。
でその後もゆっくり降りて距離が近くなって、心臓が苦しくなったけど何とか降りられた。
目は口程に物を言う。
これ考えた人はすごいと思う。
そこから目線も気になってなかなか目が見られなくなって。
たまに見るとどこ見られてるんだろうとか思うようになって。
ますます、作業に集中できなくなった。
で、考えた。
これは自意識過剰なのかな。
これはもしかしたらトラウマ的なもののせいでそう感じるのかなとか。
そうでもないのにそうだって言ったらどうなるんだろう。
子どもだと思われているのにそう言うこと考えているとか思われるのはちょっと嫌だなとか。
せっかく楽しい仕事なのに空気悪くしちゃわないかな。
セイリオスとかスピカとかに迷惑かけないかなとか。
学校生活では考えたこともなかった。
そりゃクラスのグループが分かれることもあるし、カーストと言われる階級みたいなのが存在してることも。
でも、それでもヒカリはみんなと対等だと考えることなどなかった。
それはありがたいことだと思った。
そこにあったのは区別だけで差別されることはなかった。
ただただ楽しく生活をしていただけの能天気な奴だったから考えたことがなかった。
嫌なことは嫌だと言ったし、やめて欲しいことはやめてと言えた。
幸いにも周りに恵まれていたからそれほど大きなトラブルにも巻き込まれなかったのだろうとも思う。
だから、考えたこともなかった。
お尻をガン見されるのはセクハラに入りますか?
気合を入れるためだけにお尻を叩かれることはセクハラに入りますか?
肩を組んでいた手が時々胸に当たるのはセクハラに入りますか?
同性同士でもセクハラって言っていいんですか?
移民でも言ってもいいんですか?
その瞬間に言わなかったら受け入れたことになっちゃいますか?
その瞬間動けなくなっても同意したことになりますか?
それにそういった考えとかは忙しいの日常の中に埋もれていく。
一日のたった86400秒の1とかで、それがちっちゃく積み重なっているからそれが何分の何とかわからなくなって、そもそもそんなことよりたぶんそれ以上のことをしたことあるんだから、これがどういったくらいの何なのかがわからなくて。
セクハラで済ませたくないけど、セクハラ以外の言葉がわからないし。
やめてくださいって言ったら笑って、わかったわかったと子どもだからみたいな目をされて。
だから、子どもだからって思ってるかもしれないけれど。
脳みそは同じだから。
あ、そうか、そう思われてないのかな?
気付かない振りが正しいのかな。
だってたったこれしきの事。
たった。
これっぽっちの。
魔法も使えないし、言葉だって危ういから。
仕事だって手伝ってもらわなくちゃいけなくて。
みんな忙しそうで。
こんななのに頼ってほしい、仲間に入れて欲しいとか言えなくて。
考えれば考えるほど何時も何にも考えが進まなくて、次の考えなきゃいけないことがやってきてそれでお終いになる。
だから、考えすぎちゃってあんな変なこと言ったんだと思う。
ちょっと気が抜けて熱かったから。
「あのね、セイリオス? お、おしりもさわって? ほしい、んだけど。だめ?」
忙しいって怖い。
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