確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

帰り道の夕焼けは目に眩しい10

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 ヒカリが働き始めて三か月がたった。


 お安くて見えやすい盾は、なかなか思う通りには行かないものの、それ以外の仕事は順調である。


 慣れた時が何でも危険なんだぞと、お父さんの言葉を思い出すくらいには慣れた。
 スケボーができる公園で、練習に付き合ってくれていたお父さんが、ヒカリの前ですっころんで言ったセリフだ。


 仕事でも遊びでも、恋愛でも……。ふっ、ヒカリには少し早かったかな。


 って、一人笑っていた。
 それよりもヒカリはこけた父親の破れたズボンをどうするか考えていたので、その話に付き合ってあげられなかったのだが。



 一応、それに従って基本を振り返って仕事に励んでいるので今のところ大きなミスはない。
 あと、とても優秀な先輩方がいるのでフォローもたくさんしていただいている。




 帰り道探しの方は言わずもがな。


 進展があるとすれば、今日の予定である。忙しいのに二人ともヒカリに合わせて休みを取ってくれたのだ。顔を洗って朝ごはんを食べて、ソファに座って外を眺める。


 この時期の朝の寒さを舐めてはいけないので、暑いくらいの恰好をしようかなと考えて足をぶらぶらさせていた。

 いつも朝は誰かしら出かけるので、こんなにのんびりすることはめったになかったなー、とソファに横になる。


 あ、ヤバイ。これ、二度寝できるやつだ……。


 寝転んだ頭の方でセイリオスが新聞を読んでいる。
 紙がめくれる音が、リズミカルで余計眠く……。 

 ねむ……。





「そろそろ準備するか? 一応、予約取っているからな」

 セイリオスがそう言って立ち上がったので、ヒカリの頭がぼよんと揺れた。







 本日の予定は「泉へ行く」である。



 と言ってもピクニックなどではない。教会の管轄である洗礼を受けに行くのだ。
 教会は「神の泉」を管理しており、ラクシード国の王都の教会は予約を事前にとることができる。



 魔法が普及しているこの世界にはどこにでもあり、その管理をしているのが各国にある教会で、神託によってその管理を任されたのが大昔のこと。

 もし洗礼を受けたければこの教会に断りを入れないといけないのだ。
 かといって別に莫大な料金がいるという事でもない。受けようと思えば無料で受けられる。寄付金として個人が払うお金で泉の管理はしているらしい。





 で、本日ヒカリはその洗礼に行くのだ。



 洗礼に行くには保護者が付き添うことが多く、もし、いない場合は神官が多めに付き添ってくれるらしい。


 何故かというと、使える魔力の量が多い人や、使える属性の多い人は体調不良になったり、魔力暴走になる例があるらしい。いざという時の備えみたいなもので人手がいるのだとか。



 因みにあんまり心配はしていない。



 魔力暴走を起こす子どもは大抵、予兆があるらしい。
 一つ目は、何かしら能力が使えるとか、ちょっと蓄積した魔力が漏れることとか。



 その点、自分はノープロブレム。無問題。問題なっしー。
 魔力なし世界から来たもんね。
 もしあったとしても、魔力が蓄積していないと思う。


 願わくばちょっとくらい魔力があればいいなぁとは思っている。
 せっかくの異世界でファンタジーに触れられるのだ。
 自分でもファンタジーを生み出せたらと思うのは仕方がないことだと思う。


 だから少しウキウキしている。




 もうひとつは感情のコントロールができないと魔力も暴れやすい傾向にあるらしい。


 学院に行ってその講習を受ける事が信用の証みたいになっているらしく、ヒカリも受けに行った。


 最近の傾向としては洗礼を受ける前に国立の学校で魔力について教わることが多い。
 貴族とかは自分の家で学ぶらしいのだが、平民の子どもは国立の学校や、その土地の教会などに委託して教育できるように対策が取られている。


 学院に通わなくても、移民用に講習があるということで申し込んで、週に3回受けに行った。


 因みに、フィルは14歳、洗礼を受けるのが15歳。洗礼を受ける年齢はほかの国でも幼くて13歳、高くて15歳くらいだ。


 だから、ヒカリは魔力や魔力制御に関しては基礎ぐらいしか知らない。


 魔力の制御と言えば精神統一することが大切なのだそうだ。
 精神統一とかって修行っぽくって、なんかかっこいいなくらいの気持ちで講習を受けに行った。



 講習を受けて、最終日に実技と筆記。
 あっけなく合格した。


 内容は、ヒカリの世界的なもので言うとアンガーマネジメントとか危機管理みたいなものだった。


 怒りそうになったら3秒待ってみるとか。
 こういう場面に実際あったらどうするとか。
 階段から落ちた人がいます。この人が落ちてしまった理由を考えてみましょうとか。



 後は、幻術とかいうもので、実際に怒らせてこようとしたり、脅かしてきたりとか。


 思っていたのとは違うかったが、ちょっと楽しかった。

 魔力があればやりたいことがあるから、それを思えば楽しくなるのも仕方がないと思う。



 お願いほんの少し、平均までいかなくてもいいから、少しだけ魔力が使えると嬉しいです。と毎晩誰にでもなく願ってしまうくらいにはヒカリは魔法が使いたいと思っている。



 そもそも魔力って? なんじゃそりゃ? みたいなものも講習で習った。



 この世界にある魔力の源みたいなものをこの世界の人は蓄積しているのだという。
 その魔力の源は精霊が出していると言われている。

 飛び回ってふんふんと落としているらしい。




 花粉のようなものだろうか。


 ヒカリの想像では、透き通った羽をちらちらさせて花粉の様に魔力の源を撒いて、キラキラしているイメージになった。


 すごい昔からの伝承らしいので少しくらいファンタジックでもいいじゃん。
 と誰にでもなく言い訳をする。










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